現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

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基本ムーブメント、セットオフェンス、DFシステム、ゾーンアタックなどを日々研究・解説しています。

スティーブンス、メッシーナのボールスクリーンDFコンセプト +α(Veer-Back)

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 今回は、ボストン・セルティックスHCのBrad Stevens、及びサンアントニオ・スパーズACのEttore Messinaのクリニック・ノートから、ボールスクリーンDFコンセプトを紹介・解説していく。

(また、末尾では、ボールスクリーンDFの頻出パターンであるVeer-Backについて付随的に解説する)

 

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このノートでは、スティーブンスのハードヘッジDFおよびアイスDFのシステムについて解説されている。(もちろん、ボールスクリーンDFに関する個々のスキルや心得についても丁寧に解説されているが、それらは本文参照のこと)

 

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ティーブンスによれば、図のようなP&R(Spread P&R)に対して、同サイドコーナーDF(x3)がヘルプに向かうのは望ましくないという。

同サイドコーナーに簡単にパスが通り、ワイドオープン3Pを打たれてしまうからである。

なのでスティーブンスは、ヘルプサイドコーナーDF(x2)がロールへのヘルプに出るべきだと主張している。

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なお、"Contain Blitz"とは、図のようなハードヘッジDFの際、ボールマンからパスが出るまでは、ボールマンDFとスクリナーDFで時限的なダブルチームを行うというコンセプトである。

これは、ボールハンドラーのイージーなスコアリングや、ゴール下への致命的なパスを防ぐ点で重要なコンセプトであり、ボールハンドラーが強力なプレーヤーであるほど有効となるコンセプトなのだという。

 

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これらはミドルレーンでのPNPに対するローテーション、およびサイドPNPに対するビッグマン同士のスイッチDF("X Switch")の提示。

これらのローテーションやスイッチDFの精度は、ビッグマン(x4,x5)の機動力にかかっており、このため、スティーブンスは機動力に欠けるビッグマンの採用を好まないという。

 

 

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これは、先ほど紹介したスティーブンスのDFコンセプト("X Switch", "Ultimate Helper")を練習するためのドリルだそうだ。side PNPに対してX Switchを行ってから、サイドチェンジし、spread PNRに対してUltimate Helperを行うというDFドリルである。

 

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これはスティーブンスの提案するICEのDFローテーション"ICE to Blitz"の紹介。

まず、2は(カイリー・アービングのような)優秀なスコアラーだとして、その場合は、図であるように、ICEから"Down to Blitz"(ベースライン側に誘導してからのダブルチーム)に移行して、パスをさせる。

図では、スクリナーがポップして、サイドチェンジを行うことになっている。

図のように、サイドチェンジ後にドライブが始まれば、x2がBlitzに向かい(さすがにバスケットを守るのが一番大事なので)、x4が2(トップスコアラー)へローテーションする。(他にも、”ICE to Switch”が提案されているが、その解説はこの記事に譲る)

 

 

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これは、ポップする4がシューターである場合のICE to Blitzパターンである。

さすがにシューターをオープンにするわけにはいかないので、x1がチェックに向かい、サイドチェンジ・パスが1へと飛ぶなら、x4がローテーションする。後の形は普通のICE to Blitzと同じになる。(ただ、文中でスティーブンス自身が言うように、x4が直接1へとローテーションするとは考えにくい。ヘルプサイドの他のDFがケアして、それによってオープンになったプレーヤーにx4がローテーションするのが普通だろう)

主だったコンセプトの紹介は以上だが、先ほども触れたように、ボールスクリーンDFに関しての(スティーブンス独自の)チェックポイントが多数解説されているので、関心があれば直接読むことを薦めたい。

 

 

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メッシーナは、ミドルレーンP&Rにおいて、ボールスクリーンを遅れてアングルチェンジ(late angle change)するプレーを独自に"flip"と呼んでいるが、もしこれをされた場合、ボールマンDFは必ず"アンダー"すべきだと主張している。

なぜか。図の通り、スクリナーDFのヘッジは空振っている状態で、もしここでスクリーンを”オーバー”してしまうと、ボールハンドラーの自由度が高くなりすぎてしまう。

ボールハンドラーのシュート力が高い場合でも、アンダーして自由度を下げた方が失点リスクは低下する。

 

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メッシーナは、上記の形のミドルレーンP&Rに対して、ベースライン際(ボトム)のプレーヤーがロール・カバーをするのは望ましくないと主張している。

コーナーへのキックパス、及びロールマンへのポケット・パスを防ぐことが不可能となるからである。

 

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そこでメッシーナは、一番近いDFがロールをカバーすることを推奨する。

そうすれば、先ほど挙げたような致命的な二種類のパスは不可能になる。

また、x3がカバーに出た後に3にクローズアウトするより、x2がカバーに出た後に2にクローズアウトする方が、距離が少し短くて済むというのもポイントである。

 

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図のように、ボールハンドラーが2人サイドへ、ロールマンが1人サイドへ向かう場合、「相手の狙いはより広いロールマン側のサイド」であることは疑いないため、x5はそれを想定したDFをしなくてはならない。(例えば、ボールハンドラーに対して稚拙なカバーに出ると、x5に簡単なパスを通されてしまうのでダメ)

 

 

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図の"ZIpper Chase"のような、スクリーンユーザーがトップにエントリーしてPNRをするようなプレーに対しては、普通のコーチは(図のように)ボールスクリーンを使えないようにポジショニングしてPNRによるギャップ発生を未然に防ぐという方法論を唱えがちなのだそうだ。ただ、メッシーナによれば、これは間違っているという。

 

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メッシーナの案では、スクリーンユーザーをHard denyし、より遠くでボールを貰わせた上で、PNRを"アンダー"すべきだ、ということになる。

こうした方が、失点リスクを抑えられるというのである。

 

このノートは、他にも示唆的な記述がたくさんあるので、Stevensのノートと併せて通読することを薦めたい。

 

 

おまけ Veer-Back

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Veer-Backは、図の通り、ミドルレーンPNRに対し、x1が”Late Switch"してロールマンをボックスアウトするコンセプトである。

ボールマンに抜かれきってしまっているのに迂闊に戻ろうとすると、そのままロールマンへパスが通ってしまう。

そのようなシチュエーションでは、(苦渋ながら)このVeer-Backを選択する、という具合である。

これをしないと、ロールマンへFeedが通ってしまうことはもちろんのこと、オフェンスリバウンドでも不利になってしまうので、常にオプションとして意識しておかなくてはならない。