現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

基本ムーブメント、セットオフェンス、DFシステム、ゾーンアタックなどを日々研究・解説しています。

ゾーンアタック紹介――Villanova, Providence, Knife Drive, Kansas

これまで、ゾーンアタック(ゾーンオフェンス)についてはいくつかの記事を執筆してきた。

mbtr.hatenablog.com

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上記拙記事を踏まえたうえで、お馴染みPICKANDPOP.netから、ゾーンアタックを紹介・解説していきたい。

 

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Villanova大学のHCであるJay Wrightによるゾーンアタックセットがまとめられた記事・動画。

以下に紹介・解説していこう。

 

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上記は3-2に対するMotionオフェンスである。ポイントを順を追って説明していこう。

・最初の2と4の位置交換は、「あるエリアは特定の一人が守る」というゾーンの基本ルールの弱点を突いている。(オフェンス側から見て)左側のウィングはx2しか守っておらず、2と4の双方をケアすることは出来ないので、この動きでスムーズにパスが通る。4がボールを貰うまで、2がステイするというのも選択肢的にはアリ。

・4→2のパスに合わせて、5がヘルプサイドからボールサイドのローポストへ、4がトップからエルボーに入る。ヘルプサイドでは、1と3が位置交換して、3がトップに入る。4→2のパスでx4を引き出す(Stretchさせる)ことが出来ていること、x2のマークが4から2に移ることで、エルボーにダイブした4に直接、ないしローポストの5経由でボールが入るという寸法である。

・なぜx2が4を離してしまうのか? 基本的にx2がウィングのプレーヤーをケアする役回りで、ネイル周辺はベース側のDF(基本的にはx5)のケア範囲だという基本ルールがあるからだ。しかしここでは、x5はヘルプサイドからダイブしてきた5をケアするため、トップからダイブしてきた4を十分にケアできない。x5が5と4を両天秤で守っても、どちらかに通ってしまったら、5↔4のパス交換でイージーバスケットになってしまう。

(・余談だが、x1かx3がルールを破ってエルボーをケアしにいけば、ヘルプサイドの1と3に広いアウトナンバーが出来てしまう)

 

焦点は、位置交換を用いたサイドチェンジと、ウィングにパスを落としたトップのプレーヤーによるエルボーへのダイブである。「同じエリアに複数のオフェンスが居るとケアが不十分になる」「エリアを跨ぐ動きに弱い」といったゾーンの弱点を突くMotionなのである。

 

 

ウィングへパスを展開した際に、x4をStretchさせることが出来なかった場合のパターンもある。

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ダイブした4がヘルプサイドウィングに移動する形でサイドチェンジを行い、ベースライン側のDF(ここではx5)をStretchさせる。サイドチェンジを用いてベースライン側のDFをStretchさせるのは常套手段。そこからの形は最初と全く同じ。

 

以上は3-2に対するCamp Motionだが、2-3に対しては以下のような形になる。尤も、ベースラインDFを引き出した2-3は、3-2と似た陣形となるため、オフェンスの基本形に大差はない。

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次はボールスクリーンを用いるパターン。2-3に対してはこちらの方がよく用いられているようである。

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途中まではCamp Motionと同じ。ウィングにボールを落としてからのダイブを、x2が下がってケアする想定。

Camp Motionでエルボーに入らなかったときと同様にサイドチェンジを行い、そこからサイドピックに移行する。

この際、ヘルプサイドのウィングとコーナーが埋まっているのがミソ。

PNRをx2がケアせざるを得なくなる結果として、ヘルプサイドがアウトナンバーになる構造になっている。Camp Motionと連動したごく一般的なサイドピック型ゾーンアタックである。

 

 

次に、サイドピック&ポップとElbow Flashを組み合わせたShakeというパターン。

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1&4のサイドピック&ポップ、5のフラッシュ、3(ボールサイドウィング)のダイブの組み合わせである。

まず、5のフラッシュをx5、3のダイブをx3がケアした場合は、ポップした4がオープンになる。x3が3をケアせずにポップした4をケアしようとしたら、3へのロブパスが通ってしまう。

3のダイブをx5が下がってケアし、4のポップをx3がケアするなら、フラッシュした5にボールが入る(ヘルプサイドの2経由で5に入れるパターンもあり得る)。

フラッシュした5に入った場合、ダイブした3がヘルプサイド・ローポストまでスイングすることで、x4は2と3の二人のケアを強いられ、どちらかがオープンショットを打つことが可能になる。

また、ダイブした3がヘルプサイド・コーナーまでスイングすれば、オープンなコーナー3Pを作ることもできる。

 

サイドピック&ポップで、ポップした側にアウトナンバーを作るという形はサイドピックの基本形であるが、そこにフラッシュとダイブ&スイングを組み合わせることで、展開が多様になり、より守り辛くなっている。

ボールサイドのケアを疎かにすれば、ポップかダイブのどちらかにやられてしまうのに対し、ボールサイドをケアすればフラッシュからヘルプサイドのアウトナンバーを攻められてしまうという、あちらを立てればこちらが立たないという構造になっているわけだ。

 

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Providence大学のEd Cooleyのゾーンアタックセットの紹介。

 

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まず、1と2の動きとパスで、x1とx2をボールサイドに寄せる。

そこから、エルボーの4がダイブからヘルプサイドへのスイングアウト。(このタイミングでボールをトップに戻す。)

それに対して、3がフレアスクリーンをセットすると見せかけて、フラッシュを行う。

5は最初からヘルプサイドのローポストにステイしている。

実は、「フラッシュ、ゴール下、ウィングの三つでパス選択する」という点では、VillanovaのShakeと極めて似た構造を持っている。

VillanovaのShake同様、全てをケアすることは出来ない(アウトナンバーになっている)ので、三つのいずれかのポイントにボールが入ることになる。

 

 

次は、エルボーへのパスにスクリーンを組み合わせたGAPというセット。

 

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①がドリブルダウンするのに合わせて、3がZipper気味にトップにエントリーしてx2を引き出す。ここから1→3→2とパスして、ベースラインDFをStretchさせる。(「ドリブルダウン+ウィングからトップへカット+サイドチェンジ」によってベースラインDFを引き出すというパターンは超頻出なので覚えておいて損はない。)

ここで、ヘルプサイドウィングである1がエルボーに入るわけだが、そこにx1へのスクリーンを組み合わせるのが面白い。その際、3がトップからヘルプサイドウィングに切れることで、x1の視線を誘導しているのもポイント。

x1がそれを先読みしてエルボーに先回りした場合は、スクリナーの4がトップにポップアウトすることで、オープン3Pが打ててしまう。

 

 

次は、中心DFへのダウンスクリーンが特徴のWARRIORというセット。

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1→2→1のパス交換から、2がスイングと見せかけて、5→x5のダウンスクリーンに合わせてフラッシュ。

そこに4のスイングアウト+3のフレアスクリーンを組み合わせた形。

「DFエリアを制約するスクリーン」はゾーンアタックの基本コンセプトの一つだが、中心DFへの(ダウン)スクリーンと、ベースラインDFへの(フレア)スクリーンをダブルで組み合わせた構造になっている。

 

 

次は、サイドピックと中心DFへのスクリーンを組み合わせたSIDE BS RIP UNDERというセット。

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1/4のサイドピックから2に展開することでベースラインDF(ここではx3)を引き出しつつ、ヘルプサイドから中心DFへのRipをセットしてゴール下にオープンを作る形。

「ベースラインDFを外に引き出す」というコンセプトと「DFエリアを制約するスクリーン」というコンセプトを組み合わせたもので、ゾーンアタックとしてはかなりオーソドックスな代物。

 

 

次は、ボールスクリーンとダイブを組み合わせたPUSHというセット。

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1と2の動きとパスでx1とx2をボールサイドに寄せ、トップにボールを戻すのに合わせてヘルプサイド側からボールスクリーンをセット。

x5がドライブヘルプを見て、x4がウィング~コーナーをケアする隙を突き、4がローポストにダイブする構図。(既にこれまで見てきた通り、ベースラインに沿ってDFエリアを跨ぐダイブはゾーンアタックで超頻出。)

guard switchという形で、逆側のx2がドライブヘルプに入る場合は、2がワイドオープンになるためそこにボールを戻せばよい。

 

 

次は、中心DFへのDouble Ripが特徴のOKLAHOMAというセット。

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3と5がダブルスクリーンをセットして2がスイング。

次に3と5がDouble Ripをセットして4がダイブ。

2のスイングでベースラインDF(ここではx3)を引き出し、3と5のDouble Ripで中心DFのエリアを制約するという形。基本コンセプトを極限まで徹底した構造になっている。

 

 

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ベースラインDFを外に引き出してからギャップへのドライブを行うKnife Driveというコンセプト。

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ヘルプサイドのウィングとコーナーに一人ずつ配置し、パス展開やサイドピックでベースラインDF(ここではx3)を引き出した場合、図のようにx3はヘルプサイドコーナーへのパスをケアしつつクローズアウトしてくる。(もしケアしないならそのままヘルプサイドコーナーにパスしてコーナー3Pでよい。)

これに合わせて、3がx2とx3の間のギャップへカウンタードライブを仕掛ける。

これにより、比較的容易にペイントへ侵入でき、自分でのスコア、ないしヘルプサイドへのフィード等を狙うことが出来る。

 

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【追記:2018/10/22】

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カンザス大学の(デューク大学に対する)ゾーンアタックをピックアップ。

 

 

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サイドピック→サイドチェンジ・パスに合わせて、ヘルプサイド・ローポストに立っていた4が「中心DFへのスクリーン」を行い、スクリナーのロールがオープンになるという構造のセット。

二種類のスクリーンを組み合わせてイージーショットを作り出す、シンプルでありながら極めて巧妙なセット。

 

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サイドチェンジ・パス&スイングを行ってミスディレクションしつつ、最後はリターンパスからの「中心DFへのスクリーン」&Lobでスコア。

イリーガルスクリーンを絶対に取られないように、スクリナーがハンズアップを徹底するという手の込みようである。

 

(以上)

 

追伸:この他にも興味深い記事は多くあり、PICKANDPOP.NETのZone Offenseの項目は定期的にフォローしておくと良さそう。→ Zone Offense | PICKANDPOP.NET