現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

基本ムーブメント、セットオフェンス、DFシステム、ゾーンアタックなどを日々研究・解説しています。

”Help Off Passer”とそのカウンター / 『正しいペースでプレーする』

”Help Off Passer”とそのカウンター

pickandpop.net

www.youtube.com

 

いつもお馴染み、PICKANDPOP.NETからの紹介。

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典型的なFloppyアクションに対し、パサーDFがヘルプに向かうことで、イージーショットを防ぐDFコンセプトが”Help Off Passer”である。(※Floppyなどの基本的なオフェンスムーブメントについては、拙記事「現代バスケットボールの基本的な動き」をどうぞ)

 

動画では、"Help Off Passer"に対するカウンターとして三つのパターンが挙げられている。

 

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一つ目は、最もシンプルな、即座にリターンパスを出すパターン。

 

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二つ目は、リターンパスに合わせてボールスクリーンをセットするパターン。

 

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三番目は、フレアスクリーンをセットしつつリターンパスを出すパターン。

 

 

 

 

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「正しいペース」でプレーする

Coach Liam Flynnのイングルス(UTA)に関する一連のツイートを紹介する。

 

 「優れたバスケットボール・プレーヤーであるために、優れたアスリート能力は必要ではない」

「自分のスピードと身体能力を用いて相手を欺くこと、『正しいペースでプレーする』ことが出来れば良い」

との旨。

添付動画についても解説しておこう。

"Slow to Fast" fake to create separation

文字通り、マークマンDFとの距離(separation)を作るに加速を行う。一番重要なのは最大速度ではなく、速度差をきちんと作ること。

Play at the rite pace comming off the PNR. Fast enough to maintain advantage, but not so fast that you lose your poise.

PNRにあたって、アドバンテージを維持するのに十分に速く、それでいて安定感を失わない程度の速度に抑えること、即ち『正しいペースでプレーする』。

Check the D coverage at point of screen → See the D behind the screen → Find the advantage open player on 'single side'

スクリナーDFが自分のドライブコースをカバーしたことを確認→スクリナーの裏のDFがスクリナーのロールをケアしたことを確認→その二つのカバーリングで発生したルビオのアドバンテージを見つけてパス。

こうした判断が十分に可能なスピードでプレーすることが重要。

 

 

 ペースを欺く(deception in pace)ことで、オフボールスクリーンによるオープンを作り、ひとたびDFに対するアドバンテージを作れば、そこからは「正しいペースでプレーする」、との旨。

以下添付動画解説。
Ingles takes his defender down to the block and waits for the screener

 

スクリーンを使う前に、ディフェンダーとコンタクトして、スクリーンがうまく抜けられないように準備しておく。

"Slow to fast" fake creates seperation from defender.

オフボールスクリーンでも、この”Slow to fast”でDFとの距離を作る。

He times his cut so he comes off the screen just as the screener decelerates to set it

スクリナーが減速してスクリーンをセットするのにタイミングを合わせてカッティングを行う。

First step after recieving ball cuts off the angle for D to revover in front

ボールを受ける際、DFに前に回り込まれないようにステップを踏みこむ。

Ingles plays at the right pace - fast enough to keep his advantage, but slow enought to see how the help defence reacts → He sees a cutting reciever and feeds him the ball resulting in free throws

DFへのアドバンテージを保てるだけ速く、且つヘルプDFの反応を観察可能な分だけ遅くプレーする=『正しいペースでプレーする』。

結果、ダイブしてきたオープンなレシーバーを見つけてパスでき、フリースローまで漕ぎつけた。

 

 

 このクリップでは、イングルスはPNRを使うというフェイクと急加速によって相手を欺き、リジェクトドライブからDFに対するアドバンテージを作って相手DF全体のローテーションを促した。その中で、イングルスはアドバンテージをひとたび持てば、DFのローテーションを見れるように安定的にプレーし、オープンシューターへのパスを作り出した、との旨。

以下添付動画解説。

Defender stops any advantage from turnout → Therefore Ingles calls for a ball screen to create another advantage

ディフェンダーによってアドバンテージが消されたので、イングルスはボールスクリーンを読んで新たにアドバンテージを作ろうとする。

Ingles sells to his defender he will use the screen → Causing the defence to react and open up a driving lane → 'Slow to fast' causes an even greater advantage

イングルスはボールスクリーンを使うと見せかけ、DFがそれに反応してドライブレーンを塞ごうとしてきた隙をついてリジェクトドライブを行い、アドバンテージを作り出す。

Pulling in help defence from the ballside corner → Ingles is under control and makes the right play to pass to open shooter

イングルスは、自身をコントロール可能なスピード(『正しいペース』)でプレーしていたので、ボールサイド・コーナーからのヘルプの引き出しに反応して、オープンなボールサイド・コーナーのプレーヤーにパスし、オープン3Pを作り出せた。

 

 

 Go-Stop-Goというムーブによって、タイトに突いてくるDFのバランスを崩し、オフボールスクリーン・ユーズで作るDFとの距離を大きくする。

以下添付動画解説。

Ingles waits for the screener to get in position

特定のポジションでボールを受けるため、スクリナーの到着を待つ。

He 'goes'.... → then 'stops' - just to get the defender off balance

カッティングに行くフェイクから急停止することで、ディフェンダーはバランスを崩す。

Then 'goes' again - creating seperation from his defender

そこから改めてカッティングを再開することで、DFとの距離を作り出す。これが”Go-Stop-Go”である。

This seperation is enough to create a '2-on the ball' advantage

こうしたDFとの距離づくりにより、ボールマンに2人のDFが引き寄せられるアドバンテージ('2-on the ball')が発生する。

Giving Gobert enough of an advantage to get a low block catch on the move and finish over the defender

これにより、パスした先のゴベールが深いポイントでアドバンテージを得てボールを持つことが出来、フィニッシュに繋がった。

 

 

 イングルスの「~なふりをする」(go through the motions)プレーの典型例。パサーがパスを出す位置についたちょうどその時に、急加速("Slow to Fast" fake)でDFからの距離を作りつつスクリーンを使ってパスを受ける。

以下添付動画解説。

Slow cut through the paint almost looking disinterested in the play

まるでプレーに関心を失ったかのようにペイント内を(だらだらと)カッティングする。

'Slow to fast' fake decieves defender and creates seperation

そこからの急加速('Slow to fast' fake)で相手を欺き、DFとの距離を作りだす。

 

 

 このクリップでは、また別の”Slow to Fast” fakeによるDFとの距離作りとボールスクリーン利用が、DFが目を離したちょうどその瞬間に実行されている。最後のロールへのパスも見事。

以下添付動画解説。

Ingles spaces the floor - 'high & wide'

イングルスの初期位置は高く広がっていて、マークDFを十分に外に引出し、味方へのスペースを最大限確保している。(DFが離してくる場合は、安全にボールを受けることのできるポイントを作れる)
When the defender turns his vision to the ball handler (and away from Ingles).... → ....Ingles accrelarates, creating seperation from his defender.

マークしているDFの視点がボールハンドラーに向き、イングルスから離れた瞬間、イングルは加速して、DFとの距離を作る。

This results in a '2 on the ball' advantage on the PNR

この結果、PNRによる'2 on the ball'(ハンドラーに2人のDFが引き付けられる)というアドバンテージが発生する。

The roller is open here, but Ingles sees the 'Nail' defender pulling in

ロールしたプレーヤーはオープンではあったが、ネイルのDFが寄っているのをイングルスは見て、

So he holds the pass a split second longer and passes the ball in front of the roller into the gap between the Nail and the Low Split defender

パスを一旦待機して、ネイルのDFとローのDFとの間のギャップの中で、且つロールしたプレーヤーの前側にパスを通した。

 

 

 PNR先立ってDFの位置を調整するのは重要。このクリップでは、スクリナーがピックに来るのに合わせて、イングルスはジャブフェイクを用いて、DFがスクリーンにかかる位置に誘導している。リムにアタックする際には、カバーに出てきたスクリナーDFに対してパスフェイクを見せて、コンテストのないレイアップを作り出している。

以下添付動画解説。

As the screener is running into the PNR.... → ....Ingles sets his defender up with a jab step... → Which changes the angle of the defender's feet from this...to this

スクリナーがピックに来るのに合わせて、イングルスはジャブステップでDFの足の位置をずらす。

The defender's new foot position, and the flat angle of the screen, allow Ingles to create an advantage off the PNR.

動かしたDFの新しい足の位置によってフラットスクリーンに引っ掛かり、イングルスはPNRでのアドバンテージを作り出した。

Again, Ingles attacks at the right pace - fast enought to maintain advantage, but not so fast as to lose his poise

繰り返しになるが、イングルスは『正しいペース』でアタックしている。アドバンテージを維持するのに十分なだけ速く、それでいて安定性を失わない程度の速さだ。

A pretty ball fake here makes the defender of the PNR off balance... → Resulting in an open lane to lay the ball in

素晴らしいボールフェイクによってスクリナーDFのバランスを崩し、結果オープンレイアップにつながった。

 

 

一連のツイートの趣旨を大雑把にまとめると

チェンジ・オブ・ペースによるフェイク("Slow to Fast", "Go-Stop-Go"...)によってDFとの距離を作り、アドバンテージを得る。

・得たアドバンテージを維持し、且つそれでいて判断力を失わない(安定的な)速度(”right pace”)を以てアタックする。

ということになるだろう。