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この記事では、現代バスケットボールの基本的な動きをまとめていく。
どのチームのFlow offenceないしSet offenceも、これらの基礎的なムーブメントを組み合わせて作られているものがほとんどだ。
今回主に参考にしたのは、Golden State WarriorsとLos Angels Clippersのvideo playbookである。
他のチームのプレイブックもYoutubeでは多くアップされており、そちらも参考にしているので、興味のある人はぜひ目を通すと良いと思う。
系統としては
①Two men play
②Three men play
③PNR
④Swing
⑤Set Example
におおまかに分類した。
①Two men play オフボールの二人、ないしボールマン+一人で行う動き
Pindown(Away Screen)
最もシンプルなスクリーンプレー。コーナーにいるプレーヤーへ一枚のダウンスクリーンをかけるプレー。
Away Slip
Away Screenをセットしたスクリナーが、スクリーンをキャンセルしてリムへカットインするプレー。
Slip自体は、スクリーンをキャンセルするプレー全般を指す言葉。
Invert
Away Screenのユーザーが、スクリナーに再びAway Screenを掛けるプレー。最初のスクリナー(基本的にインサイド)のシュート力があると有効なムーブメント。
(追記:2020/1/15)
Ripの形から、スクリナーとユーザーが入れ替わる形もある。(一般にScreen your ow manと組み合わされる)
Twist(Curl Pick)
Away Screenのうち、特にCurlやRejectから発展し、スクリナーのギャップを利用するプレー。3Pライン上でオープンを作るのに極めて有効なムーブメント。
Post Split
ポストにボールがあるときに、アウトサイド同士で行うスクリーン&カッティングプレー。「
シザース」という俗称もある。下図のパターン(スクリナーのBackdoor)以外にも、ユーザーのBackdoor & スクリナーのReplaceといったバリエーションがある。
Thunder
ローポストのF or Cに対してGがダウンスクリーンをかけ、エルボーでボールを貰わせるプレー。
Flare Screen
ボールから逆方向にスクリーンをかけ、ロブパスを行うプレー。
Wiper
Flare Screenの後、再度スクリーンを利用してボール方向に動くプレー。
Flare Slip
Flare Screenのスクリナーが、スクリーンをキャンセルしてカッティングするプレー。
相手がスイッチDFを多用する場合、特に効果的なムーブになる。
Rip (Back Screen)
リム方向にカットさせるスクリーン全般を指す。
Rub
カッティングするGが、カッティングをキャンセルしてF or Cにアップスクリーンを掛けるプレー。
参考→ Golden State Warriors Playbook: Elbow Series - YouTube "Elbow Rub" (1:26)
Cross Screen (Flex)
ヘルプサイドのローポストに垂直なスクリーンをセットして、ボールサイドへカッティングさせるプレー。Down Screenと組み合わせたSTSアクション(後述)が伝統的。
関連記事→ スキルメモ――リロケート、クロススクリーン・カウンター
Hammer
Wingのプレーヤーにアップスクリーンをかけてコーナーに動かすプレー。
Exit / Exit Screen
コーナーやウィングへのCut Outに対して、外側へのスクリーンを合わせるプレー。
Screen your own manで自分のマークマンを巻き込むことでスイッチを抑止したり、自分のマークマンがBlitzに向かった場合にスクリナーがSlip vs Blitzを仕掛けるなどのオプションがある。
DHO
Dribble Hands-Offの略。
派生形として、Through、Reject、Angle ChangeからのPNR移行などがある。
Flip
パスを出した先に走り込みハンズオフを行うプレー。Flip Flare、Flip Thunderと言った連続のオフェンスに発展する。
Stack Out
トップにボールがある状態で、
ネイル周辺でビッグマンがスクリーンをセットし、オフボールマンがそのスクリーンを使ってサイドチェンジする動き。カッターにギャップが生まれればそこにパスを入れてアタックできるし、カッターにボールが入らなくても、ビッグマンが即座にボールスクリーンに移行できる(Stack Exit)。カッターにボールが入らないという事は、カッターへDFが張り付いているということなので、次善策のボールスクリーンに対するDFローテーションに遅れや乱れを強制することになる。
Clearout(Seal Screen)
インサイドに居るプレーヤーが自分のマークマンにSealし、ハンドラーのドライブコースを創出して、イー
ジーな
ペネトレイトを作り出すプレー。DF側に優秀なリムプロテクターが居る時には極めて重宝するコンセプトである。(Transitionでも極めて有効な他、PNRを絡めた複雑なパターンも存在する)
Screen Your Own Man
ユーザーDFではなく、自分のマークマンであるスクリナーDFにスクリーンを掛けることで、スイッチによる対応を抑制するオプション。(それをスクリナーDFが無理に抜けようとしたら、Slip vs Blitzが決まりやすくなる)
②Three men play オフボールの3人ないし、ボールマン+二人で行う動き
Double Screen
二人(主にインサイド)が"横"に並んでダウンスクリーンを掛けるプレー。スイングしてくるGに対してセットするのが一般的である。
Elevator door
シューターをカットアウトさせた後、そのランニング・コースにダブルスクリーンをセットするプレー。自動ドアが閉まる様に似ていることから、この名前がついている。
コーナーのGに対し、二人で"縦"に並んでダウンスクリーンをかけるプレー。下図で示すような多彩なパターンがあり、3Pライン上でオープンを作るのに長けるムーブメント。
他のオフボールスクリーンとダウンスクリーンを組み合わせ、スクリナーにダウンスクリーンをかける(Screen-The-Screener)ことでギャップを作るプレー
追記:また、下記のように、
Flex Screen(Cross Screen)ユーザーが、意表を突いてダウンスクリーンを利用するパターンもある。
トップのGがWingのG or Fにボールをパスし、トップのGに対してCがアップスクリーンを掛けるプレー。このプレーを起点とする多彩なオフェンスパターンが存在する、極めて有名なムーブメント。
最近では、トップにビッグマンを置き、ガードにUCLAスクリーンをセットさせるパターンも普通になりつつある。
その理由は、①ペイントへダイブするのはビッグマンである方が合理的。 ②もしスイッチが発生する場合、インサイドでサイズミスマッチ、アウトサイドでスピードミスマッチが出来るので合理的。もしトップがガード、スクリナーがビッグマンのUCLAの場合、インサイドでスピードミスマッチ、アウトサイドでサイズミスマッチが出来ることになり、非合理的となる。
Pistol Action (21 series)
1→2のDHOから、ボールスクリーンに移行する形を基本とするプレー。DHOと見せかけて2が(1へ)ボールスクリーンを行うパターンや、2へパスして1がDHOを貰いに行くパターンなど、様々な形がある。
GがF or Cにスクリーンを掛け、ユーザーのF or Cがボールスクリーンを行うプレー。F or Cのマークマンにギャップを作り、ボールスクリーンへのヘッジを難しくすることが出来る。
【2019/2/24 追記】
Zipper Cut
ボールハンドラーのWingへのドリブルダウンに合わせて、元々Wingに居たGがインサイドのダウンスクリーンを受けつつトップに移動するプレー。これ自体はオフェンシブな動きではないが、サイドチェンジや他のプレーへの移行に際してよく多用されるムーブメント。後述するFloopyというプレーに移行するパターンは特に”Loop”と呼ばれる。
AI (Iverson Cut)
フリースローライン上にフラット・ダブルスクリーンをセットし、ウィングのプレーヤーがそれを使ってオーバースイングするプレー。ウィングのプレーヤーのギャップを大きくする。あるいは、ウィングのプレーヤーのギャップを最小化しようとすると、それ以外のカバーがおろそかになり、ハンドラー(1)のPNRが守り辛くなったりする。
(※二枚目のスクリーンはビッグマン (5)が望ましい。二枚目でのスイッチがされ辛くなる(あるいは、スイッチされても好都合)ためである。)
③PNR ボールスクリーンを起点とした動き全般
Roll&Replace (Shake)
PNRで最も基本的なオプション。スクリナーがロールインし、ユーザーとスクリナーが空けたスペースを他のプレーヤーが埋めるムーブメント。リプレーサーにDFが釣られた場合は、スクリナーのロールにパスが入りやすいという構造もある。
Single-Side Bump Action (Single Tag Action)
Roll & Replaceに類する基本パターンで、ボールサイド・コーナーに一人だけ置いてPNRを行い、ロールするスクリナーとコーナーによる2on1を仕掛ける頻出アクション。
'short' PNR
Short Roll
ボールスクリナーが深い位置までダイブせず、浅い位置(ネイルよりも外、場合によっては3Pライン上ないし3Pライン外)にロールしてパスを受け、そこからのアタックやパスを狙うプレー。ハンドラーにプレッシャーをかけてくるDFに対して有効なオプションで、ローラー(スクリナー)のアタック↔️パスの判断が優れている場合は特に厄介なムーブメントとなる。
Tag Dive (Vacuum Cut)
Tag Diveは、スクリナーに対するコーナーDFのケア(”tag”)を利用し、コーナーからのダイブで得点を狙うアクションである。コーナーDFがボール&スクリナーウォッチャーになっているときに用いる。 参考→ "Tag Dive" ("Vacuum Cut" Concept)参考②→ Tag Dive (= Vacuum Cut) コンセプトとその類型
Pop&Dive (Cut the Pop)
PNRの第二オプション。スクリナーはポップアウトし、もう一人のインサイドがゴール下への合わせを狙う。スクリナーにシュート力があるときに有効なプレー。
スクリナーがインサイドプレーを得意とする場合はRoll&Replaceを行い、アウトサイドシュートを得意とする場合はPop&Diveを多用するといった形が好ましい。
また、Popに合わせてone-pass-awayのプレーヤーがダイブするパターンもある。そうすることで、Popしたシュータービッグに対するローテーションを妨げる。この動きは特にCut the Popとも呼ばれる。
Angle Change (Re-pick, Re-screen, flip)
PNRでスクリナーが角度を変えて再度ボールスクリーンを行うプレー。一度のボールスクリーンでギャップが生まれなかったときに極めて有効なオプション。ハンドラーDFのスタンス変更に合わせて即座に三枚目のようにAngle Changeを行うパターンも多い。三枚目のタイプのAngle Changeだと、スクリナーDFのカバーも遅れがちになり効果的となりやすい。
Step-up (Weakside Step-up)、およびBoomerang Step-up
サイドチェンジパスに合わせて、ウィークサイド(ヘルプサイド)でスクリナーが文字通りStep-upしてボールスクリーンをセットするムーブ。ボールが最初は逆サイドにあるので、ボールスクリーンが視野に入っておらず、スクリーンへの対処が遅れやすい構造となっている。
PNR Slip
PNRスクリナーがスクリーンをキャンセルし、カッティングを行うムーブ。ペイントエリアにスペースがある場合はスリップイン、アウトサイドにスペースがある場合はスリップアウトを行うのが好ましい。
Slip & Lift
Chase
オフボールスクリーンのあと、オフボールスクリナーがPNRに向かうムーブ。(オフボールスクリーン・ユーザーを”追い掛ける”ことからChaseという名がついた)
AwayからトップへのChaseへの移行ムーブは、特に"
Bullet"と呼ばれることがある。
なお、オフボールスクリーン・ユーザーがボールを貰わなかった場合(ボールハンドラーが変わらなかった場合)も、オフボールスクリナーがPNRに向かえば広い意味でChaseと呼称することもある。
Veer
ボールスクリナーがそのままAwayに向かうプレー。後のAwayのケアを難しくする効果がある。
Throwback
パス展開にボールスクリーンを仕掛けた後、PNRスクリナーが最初のパサーにスクリーンを掛けに行くムーブ。(最初のパサーでないプレーヤーにスクリーンを掛けたり、サイドピックをキャンセルしてスクリーンを掛けに行ったりなどのバリエーションもある)
PNRに対するDF収縮を逆手に取り、容易な3Pを生むことが出来る。
Spain Pick&Roll
PNRスクリナーにGがスクリーンを掛けるムーブ。スクリーンをかけたGがアウトサイドでワイドオープンになりやすい。
Drag, Double Drag
エントリーで後ろから走りこんだインサイドがWingのG or Fにボールスクリーンを掛けるプレー。インサイド二人でダブル・ボールスクリーンに向かうDouble Dragというプレーもある。
Chicago play
ボールマンにあらかじめギャップを作っておくことで、DHOをスムーズに行えるよう工夫されている。
DHO+PNR
DHOに対してさらにボールスクリーンをセットするプレー。
ギャップが出来やすくなることはもちろんのこと、ボールスクリナーを二人設置することになるので、スイッチは混乱するし、DFも外へ引き出されることになる。
Zoom
Chicago や DHO+PNR (Pistol) など、3人以上が絡むDHOアクションのことを、概念的に広く包含してZoomを呼称する場合がある。
Stampede
ボールスクリーンをDecoyにして、ワンパスからのペネトレイトを狙うプレー。ワンパスの位置にいるプレーヤーのマークDFが、スクリナーのロールに対してBumpを準備しているというのが前提である。Bumpに対して準備している分、パスに対するクローズアウトが遅れるという構造。
④Swing Gの横断的な動きを主軸にしたプレー
Over Under
両Wingのガードが、一方はボールサイドカット、一方はベースラインスイングを行うプレー。ベースラインスイングに対してはダウンスクリーンをセットする。
Floppy
両Wingのガードのうち、片方がスクリーンをかけ、スクリナー・ユーザーの双方が、インサイドのダウンスクリーンを貰いつつWingへとリプレースするムーブメント。
ユーザーやスクリナーが左右どちらのWingに移動するかが自由なので、そこに駆け引きが発生し、アウトサイドでのオープンが生まれやすい。
また、両Wingがディナイされる場合はBackdoorへの移行が有効で、ポストマン(4or5)がハイポストに
Flashし、2or3の
バックドアを狙うプレーで容易に得点することが出来る。
他にも、カットアウトするガードに対してスクリナーDF(4or5のDF)がディナイを試みる場合は、スクリナー(4or5)がオープンになり、リム周りでのイー
ジーショットが生まれることになる。
3枚目と4枚目のパターンは、片方がカールから入るFloppyである。この形のFloppyの利点は①2のカールを本能的にケアしてしまい、3のカットアウトに対応が遅れる。 ②2がカールすることによって、x3が3のカットアウトに対して簡単にオーバーするのが物理的に難しくなっている、といったことが挙げられる。
⑤Set Example 上記のプレーを組み合わせたセットの数々
Loop Hammer
Zipper Cut → Floopy → Hammerで構成される有名なセットオフェンス。多くのチームがこぞって愛用している。
Hawk Action
UCLA Cut → PNR → Double Screenで構成される有名なセットオフェンス。このセットも普及度が極めて高い。
Fist Miami (Heat High Pick&Roll Chest Clear)
HornsからのWedge Roll → PNR Slip & Flare Screenで構成されるセットオフェンス。レイ・アレンが好んだ往年の名セット。
起点は厳密にはWedge Rollとは少し違うが、ボールスクリナーにあらかじめスクリーンを掛けるというアイデアは共通する。
PNR SlipにFlare Screenを組み合わせることで、ボールスクリナー(レイ・アレンがこのポジションを務めた)がワイドオープンになる。
これら以外の多くのセットも、基本的には上記のムーブメントの組み合わせによってほぼ成り立っているので、これらのムーブメントへの理解が深まれば、既存セットの構造を理解しやすくなるはずである。