現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

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Slip vs Blitz コンセプトの構造とパターン

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Slip vs Blitz は、オフボールスクリーン(Exit、Flare、Away、etc……)において、ユーザー(カッター)に対してBlitz(Double Teamとも)が行われた際に、スクリナーによるSlip inから得点を狙うコンセプトである。

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今回は、このSlip vs Blitz について、その構造を解剖し、主だったパターンを紹介することにする。

 

 

 

"Slip vs Blitz"の構造

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このコンセプトの構造は、極めて明瞭な上に、実にシンプルだ。

主にExit & Screen で用いられ、Golden State Warriorsが多用しているが、GSWのような「オフボールスクリーンからのキャッチ&シュート(しかもクイックリリース)」を得意とするプレーヤーを擁するチームに対しては、期待値の高いC&Sの3ptを抑制するため、Blitzを選択せざるを得ない場面が少なからず出てくる。

あるいは、スクリナーDFが急遽の判断でSwitch Up / Switch Out を選択せざるを得なくなり、”意図しないBlitz” が発生してしまうことが頻発し得る。

こうした状況を利用し、スクリナーがSlip → オープンなDive を試み、得点を狙おうというのが、Slip vs Blitzの構造である。

Slipへのパスの手法として、もちろん最初のボールマン(便宜上、Passerと呼ぶ)から直接パスを狙うのが通常だが、他のプレーヤー(スクリーンのユーザー=カッターや、それ以外の第3のプレーヤー)を経由してパスを通すといったバリエーションがあり得るであろう。f:id:ocum2013-041:20200412111021p:plain

 

 

当然ながら、このコンセプトはオフボールスクリーンからのC&Sの練度が肝になる。

少なくとも、ある程度の早さのリリースでスクリーンからのC&Sをアテンプトできるシューターの存在が前提だ。

(とはいえ、スクリーンユースからC&Sの3ptは、ベーシックスキルとして、あらゆるカテゴリーで訓練されなければならないのは周知の通り)

 

加えて、スクリーンの設置位置も重要になる。3ptのC&Sを狙うにせよ、Slipからの得点を狙うにせよ、スクリーンの設置位置は、3ptラインの一歩内側くらいの、やや遠目の位置であることが求められる。

(よくあるミスとしては、スクリーンの設置位置がリム方向に近過ぎて、3ptがアテンプトできなかったり、Slipしてもスペースが狭くてレシーブが上手くいかない、といったパターンがある)

 

以上の概説を踏まえ、以下にSlip vs Blitzの主だったパターンを紹介していく。

 

 

 

From Passerパターン

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From Passerパターンはおそらく最も頻度の多いであろうパターンで、DF側のBlitzに対してSlipを成功させてオープンになったスクリナーのダイブへ、最初のボールマン=Passerが直接Feedするものである。

From Passerパターンに限った話ではないが、ウィークサイドDFからのインターセプトには注意しなければならない。

(上記の動画例の二番目では、ウィークサイドDFからのインターセプトを未然に防ぐよう、ウィークサイドでPindownを行って囮としている)

また、これもFrom Passerパターンに限らないが、このSlip vs Blitz というコンセプトはいわゆるRelocateアクションと大変相性が良い。(Relocateについては、参考→  スキルメモ――リロケート、クロススクリーン・カウンター 

(上記の動画例での三番目では、Relocateと組み合わされたSlip vs Blitzのパターンを紹介している。)

 

 

From Cutterパターン

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スクリーンユーザー(ここではCutterと呼ぶ)を経由して、スクリナーのSlipにパスするパターンが、このFrom Cutterパターンである。

Cutterにパスが通ったはいいものの、Blitz、ないしSwitch Outに伴う偶発的Blitzによって、Cutterがオープンにならず、C&Sが難しい場合があり得る。こうした場合、必然的にオープンになっているスクリナーのSlipへのパスが有効となる。

また、Cutterへのディナイやプレッシャーが”半端”な場合は、一度Cutterにボールを入れることで、DF2人(CutterのDFとスクリナーのDF)の注意をCutterへと惹きつけ、スクリナーのSlipをより一層オープンにすることが出来る。

加えて、ダイブに対して角度を変えてパスすること自体が、パスを通すにあたって有効になる。DFがダイブへのパスをある程度警戒していても、角度を変えられてしまっては対処が難しくなるためだ。

余談になるが、上記参考動画で用いられているのはFloppyと呼ばれる頻出のアクションであり、これもまたSlip vs Blitzと相性が良い。f:id:ocum2013-041:20180318104817p:plainf:id:ocum2013-041:20181031164741p:plain

(参考動画:Floppy

(参考動画2:Golden State Warriors "Mix Floppy"

(参考・推奨記事:現代バスケットボールの基本的な動き

 

また、動画中の3番目のパターンでは、Slip vs Blitz に対してウィークサイドDFがヘルプに出てきたのを利用して、ウィークサイドのダイブにFeedしている。

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 この「Slip vs Blitz → ウィークサイドからヘルプ → ウィークサイドのオフェンスにパスしてアシスト」というのも、Slip vs Blitzの典型的な得点パターンの一つとなってくるので、念頭に置いておきたい。

参考動画

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From Off-Ballパターン

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Passerから直接Slip inへパスするのではなく、一方でCutter経由でパスするのでもなく、オフボールの第3のプレーヤーを経由してパスを行うのが、このFrom Off-Ballパターンである。

・Passerから直接パスを入れづらい。(DFからパスコースをケアされたり、位置関係的に出しづらいなど)

・Cutterにパスを通すにも難しい。

といったパターンにおいては、オフボールの第3のプレーヤーを経由し、角度を変えてスクリナーのオープンなSlip inにパスを通すのが有効となりうる。

 

 

 

"Screen your own man" コンセプトとの組み合わせ

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Slip vs Blitz に相性の良いアクションとしてRelocateやFloppyを紹介してきたが、それと同等あるいはそれ以上に相性の良いコンセプトが、このScreen your own manである。

Screen your own man は、Zak Boisvertが提唱したスイッチアタック・コンセプトで、文字通り、自分のマークマンを巻き込む形でスクリーンをセットし、簡単なスイッチを許さない形でスクリーンプレーを行うものである。(個人的には略称としてSUOMと呼称している。SUOMの参考動画→ “Screen your own man” - Attacking Switch Concept -

SUOMを喰らったスクリナーDFがCutterに対してSwitch Outするためには、自分に仕掛けられたスクリーンを①避けて、②Cutterに向かう、という2段階のアクションを踏まなければならない。

この構造は、スクリナーにとって極めて有利に働く。というのは、スクリナーは、スクリナーDFが自身のスクリーンを①避けたという段階で、その行動をトリガーにして、『確実にオープンかつタイミング抜群の』Slip inを実行することが可能となるからである。

非SUOMでのSlip vs Blitzは、どうしても「スクリナーがきちんとCutterに釣られるか」、「いつスクリナーを諦め、いつCutterへのケアに向かうか」が不透明という点が付きまとい、失敗の原因となる。

ところが、SUOMでのSlip vs Blitzは、スクリナーがCutterに向かうかどうか、そしてそのタイミングまで、スクリナーが確実に感知・判断することができる。また、判断基準も極めてシンプルだーーー目の前のスクリナーDFが自分を避けてCutterに向かった時、すぐさまダイブすれば良いからである。

SUOMそれ自体が、Cutterのケアを難しくする有効なコンセプトだが、Slip vs Blitzとの組み合わせは、スクリナーのSlip inのクオリティを大幅にアップするという意味で、より一層DFにとって厄介なものとなる。

 

 

 

Post Splitパターン

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Golden State Warriorsが特に得意とするPost Splitにおいても、この”Slip vs Blitz”の構造は生きてくる。

Cutterに対して(意図的にせよ、偶発的にせよ)Blitzが発生した場合、当然スクリナーのSlip inはオープンになる。Post Splitの基本得点パターンの一つである。

Post Split(及びPost Decoy)の様々なバリエーションについては、以下noteをすすめたい。

note.com

 

 

 

Pindownパターン

youtu.be

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Exit & ScreenのパターンのSlip vs Blitzを多く紹介してきたが、当然ながら、PindownアクションからもSlip vs Blitzは発生し得る。

Pindown(Away)の主だったオフェンスパターンについては、以下noteを勧める。

note.com

 

 

 

 Clearout(Seal Screen)への展開

youtu.be

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当然、第一に狙うのはスクリナーのオープンなSlipを使った直接の得点であるが、上図・上動画のように、『スクリナーDFに対する有利なポジショニング』を利用して、Clearout(Seal Screen)へと展開するのも極めて有効なオプションとなるだろう。

このオプションを念頭に置くなら、Cutterは第一にC&Sを狙いつつ、Slipへのパス or カウンタードライブ(+スクリナーのClearout)を両天秤で選択するという形が妥当となってくるだろう。

 

 

(以上)

 

P.S.

上記を一連の動画としてまとめたのが以下である。

”Slip vs Blitz” Concept - YouTube

 

 

 

 

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