現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

基本ムーブメント、セットオフェンス、DFシステム、ゾーンアタックなどを日々研究・解説しています。

トライアングル・オフェンスの陥穽

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なぜトライアングルオフェンスは廃れたのだろうか?
 
今や現代バスケ(特にNBA)においてはトライアングルに「時代遅れ」の汚名がついてまわり、スパーズモーション、P&R、Horns等が戦術の主流となって久しい。(追記:2018/10/29 DelayやSnapといったパターンも定着してきている。)
 
トライアングルは、これらの主流オフェンスに比してどの点で劣っているのだろうか?
 
この点に関しては(私の情報収集力不足かも知れないが)あまり整理して論じられていないように思う。(せいぜい「ニックスのトライアングルがひどい」程度のもの)
 
そこで明確に主流オフェンス(モーション、PNR、Hornsなど)と対比する形で、トライアングルの『やりにくさ』を論じていきたいと思う。
 
 
①オフェンスのセットアップが遅い(モーションやPNRと比較して)
 
トライアングル・オフェンスでは、ペイントエリアに二人のプレーヤーをあらかじめ配置する必要がある。そのプレーヤーは基本的に4番(PF)、5番(C)が想定される。
しかし、現実問題として、トランジション時のリスタートに際しては、これらの所謂インサイドがリバウンダーとなることが多い。この際、物理的必然として、リバウンダーとなったインサイドは最後尾からリスタートする。
それに対しトライアングルは、ペイントエリアを二人が埋めていることを要求するため、最後尾のインサイドのペイントエリア到達を待たなければならず、どうしてもオフェンスのセットアップが遅くなる。
 
参考画像:トライアングルのセットアップ
 

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※緑はパス、赤はドリブル
 
24秒ルールの縛りがあることから、セットアップの遅れはオフェンスの不利に働くし、トランジションにおけるDFポジショニングの乱れを衝くチャンスを喪失しがちなのはいただけない。
これに対しスパーズモーションは、リバウンダーが最後尾を走ることを前提とし、リバウンドを取ったインサイドをトップに置くことで、素早く5人のオフェンスをスタート出来る仕組みを作っている。
 
参考画像:Motion Weak (引用元はこちら

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また、インサイドがペリメーターエリアからオフェンスに参加できる戦術として、最も典型的なのはPNRだ。最後尾から走ってきたインサイドが、ウィングやトップのガードにボールスクリーンを掛ける形でオフェンスがスタートするのはスタートの早さの面で極めて理に適っている。(このプレーは特にDragと呼ばれる)
 
参考画像:Drag
 

 

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オフェンスの展開が高速化していけばしていくほど、モーションやPNRメインのオフェンスは有利になり、トライアングルオフェンスは不利になる。
 
 
②実はポストを有効活用しづらい
 
 
トライアングルのファーストオプションは、ローポストにポストアップしたインサイドにボールを入れ、ガードのカッティングプレーかその後のインサイドの1on1で得点を狙うものである。(セカンドオプションはヘルプサイドに展開してからのツーメンオフェンス)
 
しかし、ウィング、コーナーに人を置いてからローポストにポストアップする形は、ポストを利用するには実は不向きな形だ。
 
実はコーナーに人が居る分だけ、ポストマンが使えるエリアが狭くなっている。同時に、パスを通せるレンジも狭くなっているのだ。
コーナーにポジショニングするガードがキャッチ&3Pに優れている場合はある程度ポストパスも通りやすい(それでも範囲が狭くなることは変わりない)かもしれないが、3Pの確率が低かったり、クイックリリースが苦手であったりすると、コーナーDFがポストパスをケアするのが容易になってしまい、却ってポストパスを邪魔する。
 
 

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2001レイカーズも、シャックにポストで攻めさせる場合は、コーナーに人を置かない形を作ることが少なくなかった。その方が、ポストにパスを入れやすく、ポストマンも最初から広いエリアを使えるので攻めやすいのである。
 

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例えば、GSWのポストプレーやPost Decoy(ポストにボールを置いて、残り4人の動きでギャップを作るプレー)も、ウィング-ポスト一人ずつ(計2人)の位置関係を作り、ポストマンはポスト付近の広いエリアを使ってパスを受け、ポストプレーを行うのが基本型である。(特に、ゴール下のスペースを確保するためにポストやや外側へのポストアップを多用し、オフボールのカットインを活かす形を作ることが多い)
(参考:Post Decoy
 
Post Decoyの例
 

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トライアングルのようにコーナーに人を置くのは、ウィング~コーナーでボールを動かすことで角度を変え、ポストに入れやすくするという狙いもあるのかもしれないが、それよりもポストマンに広いプレイエリアを与える方が費用対効果に優れている。その必然的帰結として、ポストアップを利用する際は同コーナーに人を置かない形(トライアングルとはまさに真逆の方針)が主流になったのだと考えられる。
 
 
③ボールムーブメントに難がある(Strtech 4やHornsと比較して)
 
現代バスケ(特にNBA)では、所謂4番(時には5番)にペリメーターより外の領域にスペーシングさせることが珍しくない。また、スモールボールラインナップといって、サイズが小さめだがペリメーターでプレイできる機動力に長けた5人でプレーするオプションも珍しいものではなくなった。
 
Stretch 4の例

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Stretch 4からPNRへの移行 5人全員が3Pライン外へ

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こうして、3Pラインに4人以上が並ぶようなフォーメーションが頻出するようになった。このようなフォーメーションの主な利点は2つあって、一つはペイントエリアのスペースが広がること、もう一つは、ボールムーブメントが良くなることである。
 
3Pラインに4人以上を並べると、3Pライン上がワンパスの距離で繋がり、スムーズなボールムーブメントが可能になる。
 
 

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一方、3Pラインが3人以下であると、途端にボールムーブが難しくなる。
トライアングルオフェンスは、基本のポジショニングが3out2inであり、ボールムーブの面でStrech 4などに劣ることになる。
 
 

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またHornsも、エルボーやや外に位置取る場合はかなり4out1inや5out0in寄りになる分、ボールムーブに優れており、この点でトライアングルより勝っている。
 
例:広めのHorns

 

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【トライアングルの使い方】
 
では、トライアングルはもう使えない、ないし使いにくいオフェンスなのだろうか?
 
一つ使い方としてありえるのは、オフボールのスペーシングとしてのトライアングルだ。これはかなりのチームで頻用されている。
 
ボールサイドのツーメンプレー(基本はPNR)に対し、ヘルプサイドのコーナー、ウィング、ペイントエリアにそれぞれスペーシングする、「ヘルプサイドのトライアングル」という形は、所謂「合わせ」のスペーシングとしてとても理にかなっている。
 
ヘルプサイドのトライアングル
 

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ヘルプサイドのトライアングルの実例

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一旦トライアングルを形成してからサイドチェンジし、展開先でボールスクリーンプレーを行い、「ヘルプサイドのトライアングル」へアシストパスを出す、というようなオフェンスの形は、実際有用であるようだ。
 
 
参考リンク:
トライアングルについて 
 
スパーズ・モーションについて
 
Hornsについて
 
Delay、Snapについて