現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

基本ムーブメント、セットオフェンス、DFシステム、ゾーンアタックなどを日々研究・解説しています。

フレッド・ホイバーグ(現ブルズHC)/ マーク・ヒュー(ゴンザガ大HC)のクリニック・ノート …オフェンスシステム、トランジション、P&R判断……

またしても、PICKANDPOP.netから、クリニック・ノートを取り上げる。

過去のクリニック・ノート紹介は以下の通り。

mbtr.hatenablog.com

 

今回は、フレッド・ホイバーグとマーク・ヒューの二つのクリニック・ノートを取り上げる。

 

フレッド・ホイバーグ(現ブルズHC)のクリニック・ノート  (オフェンスシステム、トランジション、セカンダリーブレイク)

pickandpop.net

 

このノートにメモされているホイバーグの主張を要約していこう。

 

オフェンスシステムについて

・オフェンスシステムは、各プレーヤーの個人能力に応じたものに変革していくべきだ――したがって、プレーヤーの代替わりに応じて年々変革していく必要がある。

・各オフェンスにあたって、各マークの個人能力のミスマッチを発見し、それを攻めるべき。

・コーチは、迅速(fast)なプレーを求めるだけでなく、各プレーを毎日分解(break)する努力を行うべき。

・ボールスクリーンやDHOは、カバーを1人減らすことになるので守りづらい。

・ボールスクリーンやDHOによって、2人のDFに1人を守らせる。

・同じサイドに2人のベストプレーヤーを置き、2人にツーメンゲーム(ボールスクリーンorDHO)を行わせる。

・ある特定のアクションを本当に好むなら、同じアクションを複数の異なるセットに組み込んでみるべき。

 

 

トランジションについて

トランジションにおける役割は以下の通り

5番=リムに走り込んで、マークマンを打ち倒す(beat your man down the floor)。

4番=リバウンドに向かう。

(4番/5番は相互に役割を交代可能)

2番/3番=指定された走行レーンはない(引用者註:平行に走っても良いし、クロスしても良いだろう)が、コーナー深くまで走り込む必要がある。それによってポイントガードのスペースが生まれる。もしウィングで立ち止まったら、PGのドライブレーンが混雑してしまう。もし1番がマークマンを抜けば、x2(2番のDF)やx3(3番のDF)はヘルプ(ローテーション)せざるを得なくなり、ワイドオープン・コーナー3Pが生まれる。

トランジションで第一にすることは、セカンダリーブレイクに入る前に、素早く得点できるようDFをよく観察することだ。

・我々は、DFがセットされる前にトランジション3Pを打つことを非常に良く好む。

・我々はまた、トランジションにおけるDragプレー(=ボールスクリーン)を好む。それは即座にディフェンスへ圧力をかける。

トランジションでウィングにボールが入ったとき、インサイドのビッグマンがシールしているかどうかをよく見ておかなくてはいけない。――そうでないなら、ビッグマンを走らせる意味がない。

 

セカンダリーブレイクについて

ホイバーグは、数種類のセカンダリーブレイクを紹介している。それぞれ簡潔に解説していこう。

 

1. Power

f:id:ocum2013-041:20180223085226p:plain

 

Powerは、5→2 クロススクリーンによってx5(5番DF)にヘルプを強制し、5のPost upにスムーズに入れるコンセプト。x3が2をケアしてくるようなら、4→3→2のコーナー・ローを狙える構造になっていることにも注意すると良いだろう。

 

f:id:ocum2013-041:20180223085555p:plain

Powerに合わせつつサイドチェンジを行い、UCLA→Pop outから、PNRに移るコンセプト。2/5 PNRから、2→4→5や2→3→5のアングルチェンジ・パスが狙える構造になっているのも面白い。

 

f:id:ocum2013-041:20180223090606p:plain

 

サイドチェンジをキャンセルし、4/1 DHOから4&5→2のStaggerに移行するアクション。(発展形としては、2/4 PNR + 5→3 Hammerといった展開があり得るだろう。)

また、ボールサイドのケアが強まる場合は、ヘルプサイドの3を経由して5のPostを利用する、というCounterが用意されている。

 

f:id:ocum2013-041:20180223091118p:plain

Stagger Counterの変形じみた形で、4/1 DHOから3にサイドチェンジし、5&2→4 Ripで、4のPostにボールを入れる。Stagger系を警戒していると虚を突かれる形となっている。

 

 

2. Swing

f:id:ocum2013-041:20180223101843p:plain

Motion weakと構造は同じ。Counterとして、1のbackdoor(裏では3のカットアウト)が用意されている。

 

3. Reverse

f:id:ocum2013-041:20180223103352p:plain

ヘルプサイドでのDHOから、STS、ないしRipを狙うプレー。

 

4. Baseline Double

f:id:ocum2013-041:20180223103816p:plain

Floppyアクションに酷似する形。アウトサイドでスイッチが生じた場合、4or5がオープンになり得るところは見逃せない。Hammerアクションへの展開もあり得るだろう。

 

5. Trailer

f:id:ocum2013-041:20180223103958p:plain

ドリブルエントリーから、UCLAandPop→2/5 PNR、ないしUCLA→1/4 PNR(Wedge Roll)に移行する形。トップの4へのディナイが試みられるシチュエーションで特に有効になるかもしれない。

 

6.Wide Pin

f:id:ocum2013-041:20180223105013p:plain

トップの4がヘルプサイドへPindownをかける形。これも、トップ4へのディナイが厳しいときのバリエーションの一つになるだろう。(4/1 DHOの場合は、4がRoll inし、5がLift(トップ方向へリプレース)する)

もちろん、素直に3がレシーブして、3と4でCurl Pickすることも十分パターンとして考えられるだろう。

 

 

――――――――――――――――――

マーク・ヒュー(ゴンザガ大HC)のクリニック・ノート

pickandpop.net

 

トランジションについて 

・良いショットクリエイトのためには、ボールプッシュは早いに越したことがない。

ショットクロックの早い段階の方が、遅い段階よりも良いショットを作りやすい。

トランジション3Pは、DFがセットされていない分、容易にオフェンスリバウンドを取りやすい。

インサイドアウトは、ファールを誘いやすく優れたプレー。

トランジションでショットを作れなかったら、ボールムーブメントやオフボールムーブに切り替える。

 

 

P&Rにおける”読み”

・我々は、P&Rのブレークダウンに多大な時間を割き、P&RにおけるDFの動きへの”読みreads”を鍛えている。

・良いスペーシングによって、ハンドラーの視界が良好になり、ハンドラーの判断が向上する。

・ハンドラーは、P&Rに際して『予め判断する』ということはしてはならない。

・誰がロールをケアしているのかが最重要。

・誰もハンドラーを止めに来ないなら、ハンドラーはスコアを狙う。

・ハンドラーが作れる最良の展開は、自分に2人のDFを引き付けること。

・ハンドラーたちの”読み”を鍛えるにはフィルム(動画)が有効。

 

f:id:ocum2013-041:20180223122530p:plain

・上図のサイドピックにおける1-4スイッチに対しては、スイッチさせてから元の位置(ウィング)に戻り、ミスマッチでのPostを狙う。ヘルプサイドのビッグマンはトップに上がって、ハイロープレーに備える。

 

・ゲームでは、相手のDFに注目する。―ポストのボールが入ったときのDF、サイドピックに対するDF、ミドルピックに対するDF…。

・どんな種類のトラップに対しても、スリップムーブで対処するのを好む(その際、ヘルプサイドのビッグマンは即座にトップへとliftする)。

・ボールスクリーンは夕焼けと同じで、多種多様であり、ピックの前に”決めつけ”を行ってはいけない。—―自身でスコアを狙うか、ビッグマンに入れるか、入れるとしてどのように入れるか……。

・vsハードショウ: 即座にパスを見る。

・vs平行なショウ(lateral show): ビッグマンにパスを出す(orシュート)か、ショウに出てきたビッグマンを遅れて攻める(orロールにヘルプして来た方のコーナーにキックアウト)

・ショウDFの躊躇は、ハンドラーにスプリットする自由を与える(低頻度のプレーだが、実行できる能力を備えれば強力な武器になる)。

・vsICE: サイドラインに押し込められてはならない。ミドル方向にいくための手段としては、ボールスクリーンの方向をフラットに変更(flip)し、ハンドラーがスネークドリブルを試みるというものがある。

 

オフェンスシステムについて

・我々は、ポストにボールを入れ、ダブルチームを誘い、オフボールのプレーヤーで攻めるコンセプトを好む。

・ゾーンアタックで有効なのはコンセプトを持ったプレーをプレーヤーに求めることであり、フォーメーションはそのための枠組みに過ぎない。

・P&Rにおいて、ビッグマンは、パスを信じてロールしなくてはならない。また、ビッグマンが完全にオープンになるときは、たいていパスするには手遅れである。

 

1. "Bulldog"とその派生

f:id:ocum2013-041:20180223131417p:plain

UCLA→PNRからサイドチェンジ、バックドア、PNR+lift (by big) 、以下繰り返し、といった具合にボールスクリーンプレーを繰り返すアクション。

トップのビッグマンを介したアングルチェンジ・ハイローが特にねらい目。また、5のロールインに対してヘルプサイドコーナーDFのx1がケアしてくるようなら、即座に4→1のスキップパスを狙う。

これを基本形として、以下に示す様々な派生形へと発展する。

 

f:id:ocum2013-041:20180223131725p:plain

UCLA→PNR、サイドチェンジ、バックドア、PNRから、Floppyアクションに移行。

 

f:id:ocum2013-041:20180223131936p:plain

UCLA→PNR、サイドチェンジから、PNRではなく、元のサイドへドリブルしてインサイドのビッグマン(5)にボールを入れる。

 

f:id:ocum2013-041:20180223132225p:plain

UCLA→PNR、サイドチェンジから、Rip&STS-Staggerを組み合わせるアクション。5のポストアップと、3の3P or Chase PNRを狙う。

 

2. "Loop"シリーズ

f:id:ocum2013-041:20180223134216p:plain

Zipper PNRの2形態。

2-3ゾーンのアタッキングに有効。

(1にx1が付く関係上、2にx2が付かざるを得ず、ボールスクリーンでx2がはがされてしまうと、2、5、3をx5とx3の二人で守らなくてはいけなくなる。)

 

以上。

 

 

関連リンク

mbtr.hatenablog.com

mbtr.hatenablog.com

mbtr.hatenablog.com

mbtr.hatenablog.com