現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

基本ムーブメント、セットオフェンス、DFシステム、ゾーンアタックなどを日々研究・解説しています。

ファストブレイク/トランジションのクリニック・ノート紹介(アルヴィン・ジェントリー、クリス・マック、マイク・ダントーニ...)

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PICKANDPOP.NETから、これまでいくつかのクリニック・ノートを紹介してきた。過去のクリニック・ノート紹介は以下の通り。

 

mbtr.hatenablog.com

mbtr.hatenablog.com

mbtr.hatenablog.com

 

今回は特にファストブレイク/トランジションにテーマを絞ってクリニック・ノートを紹介・解説していこう。

・個人的に注目した部分を抜粋し(太字部分)、それに個人的コメントを付加する。

・抜粋部の翻訳は基本的に意訳気味。

 

pickandpop.net

・(トランジションの際)どちらのサイドで攻めるか決めなければならない。中央部にボールをキープするのは禁物。

――理由についてこのノートには深く書かれていないが、考えられる理由としては①リムランするプレーヤーや、トレイルするプレーヤーのランコースを塞いでしまう、②Drag(トランジションでのボールスクリーン)へスムーズに移行しにくい、といったものが挙げられるだろう。

 

・ウィングプレーヤーはコーナー深くまで全速力で走る。何故か? もしウィングプレーヤーがフリースローラインの高さで止まってしまうと、ウィングDFはドリブルペネトレーションに対して絶好のヘルプポジションを取れてしまう。コーナーに居れば、自分のDFがヘルプに向かった際にワイドオープンショットを打てる。

――トランジションの際にコーナーまで走り切るべきだという話は、他のノートでも繰り返し出てくる基本的かつ共通の注意事項である。

 

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5: レーンをオープンにしたいので、5は逆サイドのブロック(=ウィークサイド・ローポスト)に走り込むよりも、3Pライン外にステイするか、ブロック(=ローポスト)から一歩離れた位置に行くべき。

――後者はともかく、前者(3Pライン外)の提言には少し驚くだろう。しかし後に示すようにダントーニも似たような提言をしていて、コーチ陣的にはそれだけスペース確保の優先順位が高いようだ。ただ、最近ではStretch 4が普通になってきたので、5がDragして4がウィークサイド・ウィングに立つという形なら寧ろ自然と言えるだろう。

4: オンボールDF(=ハンドラーDF)がスクリーンをオーバーせざるを得ないような角度でピックを行う必要がある。(そうすれば、ヘッジDFはドリブルを守るか、ハンドラーとスクリナーの両方を守るかのどちらかを強いられる)

――これは後にダントーニも同じことを指摘している。Dragを簡単にアンダーされてしまうと、攻撃が停滞してしまうからだ。

2: 4のロールに合わせて、ウィングに上がる。(=Roll&Replace)

――基本的なRoll&Replace。トランジションでのDragは迅速にこの形を作れるのが強み。

 

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・2がパスを受けてもバスケットに直接ドライブできなかった場合は、コーナー深くまでドリブルダウンして、ウィングに1を入らせ、1にリターンパスしてからピックに移行する。(4はボールサイド・ポストにダイブしてから、ウィークサイド・ローポストに移動して”Short”、つまり5のロールインへのパス中継(アングルチェンジ・パス)できる位置を取る。)

――1がウィングに入れるようコーナーにドリブルダウンすることと、下手に焦ってポストパスやウィークサイドへのスキップパスを狙わずにウィングに入った1にリターンしてPNRに移行することがポイント。よくあるミスは、①2がウィングに留まってしまい、1が入るスペースがなくなる、②2が焦ってポストパスやスキップパスを狙い、インターセプトされてしまう、の2つであり、これら2つを回避する構造になっている。

2は先ほど同様、5のロールに合わせてウィングへリプレースする。

――後にも触れるが、ジェントリーはsingle-side bump action、つまりコーナーに1人置いた状態からのPNR→Roll&Replaceという動きをかなり重要視しており、いかに素早くかつスムーズにこのアクションにもっていけるかが意識されている。

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・アウトサイドプレーヤーが走り込んだサイドが被ったら、二人目が「押し込んで」、一人目のプレーヤーをウィークサイドコーナーへ移動させる。

――最初に走り込んでいる一人目のプレーヤーが状況に気付かず、二人目が走り込む場所(コーナー)がなくなってしまうというのがよくあるミス。全体の配置を随時把握して、適切なポジショニングを取るべき。

・シューターはボールスクリーンに合わせて動く。シューターDFがロールをtagするのに合わせてリプレースする。single-side bump action(コーナーに一人置いて、サイドピック→ロール&リプレースを狙うプレー)を常に狙う。これにより、シューターDFがどちらかを捨てざるを得ない状況を作る。

――先ほども述べた通り、ジェントリーはこのsingle-side bump actionをいかに作るかを重視している。もっとも、高いカテゴリーでは全体的に同じ認識だと思われる。

・ウィングは十分に外側を走りスペースを広げる。(図の赤の部分)

――物凄く当たり前のことだが、それでもわざわざ言うということは、それだけ重要だということだろう。

 

続きの部分ではDouble DragやStep-up screen、Versus ICEなどより具体的なオフェンス例について論じられているので関心あれば直接読んでみると良いだろう。

 

 

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リバウンドルールと責任

・4か5がリバウンドを取った場合――取らなかった片方はリムランナーになる。(リムラン=その名の通りリムへ走ること)

 ・リバウンダーはポイントガードだけにアウトレットパスを出す。

   ・このため、ウィングは混乱することなく前に走り出せる。

――確かに誰がアウトレットパスを受けるかで混乱して、アウトレットが出せなかったり、ウィングの走り出しが遅れたりというミスはよくあるもので、これは防止されなくてはならないだろう。

 ・リムランナーは、タッチダウンパスが飛んできた場合の対応を意識しつつ、可能な限り深い場所までシールしに行く。

――余談だが、リムランナーのシールがClearout(Seal Screen)となってポイントガードやウィングのドライブをアシストする場面もよくある。

・1、2、3の誰かがリバウンドを取った場合。

 ・全員が(リバウンドを取ったら)ボールプッシュする。このポジションは全員は交換可能でなければならない。

 ・残り二人のガードは広くスペースを取って走る。両サイドをそれぞれ走る(”Split Sides”)か、同じサイドに二人走る(”Paired Side”)か。

 ・リムランナーを邪魔しないようにするため、コートを横切るのを禁ずる。(このため、ガード二人が同じサイドを走るという状況が発生し得るのである)

――あえてウィングがクロスして走り、相手DFのピックアップを混乱させるという戦術も一応存在することに注意。クロスする戦術も、クロスを禁止する戦術も、それぞれメリット・デメリットがあるということだ。

   ・完全に走り切り、コーナー深くまで行く。

   ・踵をサイドラインぎりぎりまで寄せ、スペースを確保。

 ・4、5が二人で競ってリムランを行う。

・前方へのパスを常に狙う。

 ・前方へのパスからのレイアップ(ウィングorリムランナー)

 ・前方へのパスからのドライブ&キック(逆サイドへのキックパス)

 ・前方へのパスからのポスト(ウィング→ポスト)

ポイントガードは最初のドリブルをミドル方向について、ハーフコートを過ぎる前に前方へのパスを(出すかor出さないか、出すとしてどこに出すか)判断する。

・前方へのパスを出したら、パサーは逆サイドへカットアウトしなければならない。

・前方へのパスは同サイドウィングに出してもいい(”Down the Street”)、逆サイドウィングに出してもいい(”Across the Street”)。

・ただし、ウィング二人が同じサイドに走っている際(Paired Side)は、(レイアップ確実でもない限りは)パスを出してはならない。

・前方へのパスを出せない(出さない)場合は、ポイントガードをハンドラーとしたDrag(トランジションでのボールスクリーンプレー)に移行する。

ポイントガードによる)Drag Screen

・リムランナーは逆サイドの、自分のシュートレンジまで移動。(3Pがレンジなら3Pライン外でも良い。)

ポイントガードによるDragの場合は、Dragスクリナーは(仮にシューターでも)常にロール。

・前方にパスを出してからDragをする場合や、逆サイドにウィングが二人いる場合(Paired Side)は、Dragスクリナーはロールを自分のプレースタイルに合わせて選択。

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他にも、「前方へパスした先のプレーヤーがハンドラーを不得手としているなら、Dragではなくポストパスやハイローを狙え」、「バスケット(リム)周囲ではDFを意識してバウンズパスをしろ」、「リムから2フィート(60cm)で貰ったら、ドリブルせずにそのままスコアに向かえ」など、いろいろと示唆に富む記述があるので興味あれば全編を読んでみると良いだろう。

 

 

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トランジションでは7-10秒でのオフェンス完成をチームの共有事項としている。

トランジションポイントガードがサイドチェンジするのは好まない。ポイントガードは同じレーンに留まるべきだし、そのために周りはカッティングしてスペースを作るべき。

ポイントガードトランジションにおけるリズム作りが重要。速ければ良いというわけでもない。

トランジションの最初の三歩が大事。遅れはアドバンテージ喪失につながるので、ポゼッションが自分たちに移ったら即座に反応すべき。

・2、3はコーナーに全速力で移動。(広く走るのが鍵)

――誰も彼もが同じことを言っている。

・4がリムランするのは好まない。センターライン寄りかつ広がっているのが好ましい。

――先程触れたようにも、アルヴィン・ジェントリーと同じ提言。それだけスペースメイキングが重要視されているということ。

 

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・(上左図は)ビッグマンにとって自然な角度だが、アドバンテージが作れない。

・(上右図は)望ましいスクリーン角度。ボールハンドラーの下側に回って、ハンドラーDFの裏側("bottom half")からスクリーンをかけることで、ハンドラーDFにオーバーを強要し、(スクリナーDFに対する)2on1を作ることが出来る。

――ハンドラーDFにオーバーを強要する浅い角度のスクリーンセットは、ジョン・ストックトンとカール・マローンのピックアンドロールはもう古い! byコーチPなどでも強調されており重要コンセプト。ただし、ファイトオーバーはされないように注意が必要。

・Dragプレー中にウィークサイドの二人が位置交換するのを好まない。ハンドラーは彼らがシュートの準備をしていることを望んでいるからだ。

――実際のところ、ボールスクリーンプレーにおけるウィークサイドの位置交換は有意義になり得る(参考リンク)ので、一概には言えない。

 

・スクリナーのルールは、ハンドラーDFの裏側にスクリーンセットしてハンドラーDFにオーバーを強要することと、スクリーンにHitさせたら即座にロールorポップに移行すること(Don't "Hold")。

――"Hold" Screenにもハンドラー主体で攻める場合は利点があるのだが、それはそれとして、ダントーニは Early Roll、Early Pop を志向しているということ。この点については、以前拙記事で紹介・解説したこともある。(参考リンク: "P&RからPickを取り去る"という革命

・DHO(ドリブルハンドオフ)では、早めにガードにパスして走ってスクリーンに行った方が良い。

――手渡しにこだわると、手渡し際を狙われてインターセプトされるからだろうか?

・イリーガルスクリーンを吹かれるのはビッグマンのミス。もしハンドラーのドライブのタイミングが早すぎたとしたら、ハンドラーDFを避けてターン&ロールをすれば良いだけのこと。

――ハンドラーがDFを抜けているなら、スクリーンをかけなくてもでもスムーズに2on1に移行できるだろう。

 

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・深い位置でのP&Rを好む。ポイントガードは2の居るサイドに入り(2はウィークサイドへカットアウト)、5はポイントガードを追いかけてボールスクリーンを掛ける。

――ハンドラーの攻めるスペースを増やし、スクリナーのロールへのtagを難しくするというところがメリットと思われる。

 

 

他にも、「狙いはいつも2on1を作ること」、「ボールスクリーンへのBlitzに対してはShort Rollで対応」(※Short Rollについてはこちらを)、「バスケットボールは読みのスポーツ。単に読みを教えるだけでなく、読みを理解し、読みが出来るようになるよう指導するべき」、「NBAのスカウティングも大抵は『相手がこう守ってくるから、ここがオープンになる』というもの」など、色々と示唆的な部分が多いので、関心あれば通読を勧めたい。

 

 

 

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4:トレーラー

1:サイドライン際でアウトレットパスを受ける

2/3:サイドライン際、バレーボールライン以上に広がる。

5:リムランナー

我々はポイントガードを(ジャンプボール・サークル上を通過させつつ)クロスさせることを好む。

――クリス・マックとは全く逆のことを言っている。横切らせることのメリットについてOtzelbergerは解説していないが、ありそうなメリットとしては、両サイドへバランス良くパスを見ることが出来るといったことが考えられよう。(最初は同サイドへのパスを見て、次にコートをクロスしつつ逆サイドへのパスを見る)

ウィングはコーナーまで走り切ってDFと広げ、ドライブ可能なギャップを最大限作り出すべき。ウィングに止まってしまうと、十分なスペースが生まれない。

――逆のこちらは、どのコーチも雁首揃えて同じことを言っている。

リムランナーはDunk Spot(ベースライン沿いで、ハッシュマークの一歩外)に位置を取り、スペースを広げるべき。

――Dunk Spotは要するに下図の赤丸部分のこと。

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トランジションでどう攻めるかはポイントガードが主導して決定する:

”Hit”…前方のウィングへパス

”Side”…ウィングとDHO

”Swing”…トレーラー(4)を経由してサイドチェンジ

”Drag”…ボールスクリーン

”Flip”…ミドル方向にドリブルしてトレーラーの4とハンドオフ

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――それぞれのより詳細なパターンについては、実際にクリニック・ノートを読んでみることを勧める。

 

 

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フレッド・ホイバーグのクリニック・ノートは以前既にこちらで取り上げたのだが、改めてファストブレイク/トランジションに当たる部分を取り上げたい。


トランジションについて

トランジションにおける役割は以下の通り

5番=リムに走り込んで、マークマンを打ち倒す(beat your man down the floor)。

4番=リバウンドに向かう。

(4番/5番は相互に役割を交代可能)

2番/3番=指定された走行レーンはない(引用者註:平行に走っても良いし、クロスしても良いだろう)が、コーナー深くまで走り込む必要がある。それによってポイントガードのスペースが生まれる。もしウィングで立ち止まったら、PGのドライブレーンが混雑してしまう。もし1番がマークマンを抜けば、x2(2番のDF)やx3(3番のDF)はヘルプ(ローテーション)せざるを得なくなり、ワイドオープン・コーナー3Pが生まれる。

――この点に関しては、本当に猫も杓子も同じことを言っている。

トランジションで第一にすることは、セカンダリーブレイクに入る前に、素早く得点できるようDFをよく観察することだ。

・我々は、DFがセットされる前にトランジション3Pを打つことを非常に良く好む。

――オープンの3Pを「狙うべきショット」としたら、それが最も実現しやすいのはトランジションであるということはGSWやHOUなどを見てもよくわかることだろう。

トランジションでウィングにボールが入ったとき、インサイドのビッグマンがシールしているかどうかをよく見ておかなくてはいけない。――そうでないなら、ビッグマンを走らせる意味がない。

・我々はスペーシングを毎練習日で練習している。それが一番大事なことだからだ。

・我々はまた、トランジションにおけるDragプレー(=ボールスクリーン)を好む。それは即座にディフェンスへ圧力をかける。

 

 

 

クリニック・ノート紹介はとりあえず以上になる。

全体をおおまかにまとめよう。

・ウィング二人をコーナーへ走らせるのは全コーチ共通

この点に関しては、寸分の狂い無く全てのコーチが、ウィングプレーヤーによるコーナーへの迅速なスポットアップの重要性を主張していた。ドライブorリムラン出来るスペース(ギャップ)を作りつつ、ポイントガードがドリブルエントリーする場所を作るという点で、どのコーチもこのルールを最重要ルールの一つとして強調していた。

また、サイドラインぎりぎりいっぱいに広がる(広がりながら走る)ということも共通した強調事項だった。

・Dragの際、スクリナーは浅くスクリーンを掛けて、ハンドラーDFにオーバーを強要する。

これはジェントリーもダントーニも共通して強調していた。トランジションで迅速に2on1を作ることが、クイックスコアの重要ポイントだということだろう。

インサイドでのスペーシングは、ベースライン沿いで、ペイントからある程度離れた位置(”Dunk Spot”

ジェントリー、及びOtzelbergerが双方述べていたポイント。ドライブやロールのためのスペースを空けつつ、合わせやオフェンスリバウンドを狙えるポジションとして重要。

・4~5番がトレイルするか/アウトサイドにスペーシングするか、ポイントガードが中央を横切るか/横切らないかなど、細かいルールでは”個性”が出る。

どの方針が特別に優れているというわけでもなく、それぞれメリット/デメリットがあるので、各チームの方針に合わせて柔軟に設定すればよいだろう。重要なのは、それぞれのチームできっちりと固有のルールを作り上げ、共有するということである。

 

(以上)