現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

現代バスケットボール戦術研究(Modern Basketball Tactics Research)

基本ムーブメント、セットオフェンス、DFシステム、ゾーンアタックなどを日々研究・解説しています。

Golden State WarriorsのスイッチDFコンセプト

以前、GSWのSwith Defenceが洗練されすぎている件についてにおいて紹介したGolden State Warriors Switching Conceptsについて、詳細な解説を行いたいと思う。
 
 
 
 
 
①Triple Switch
 

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ボールスクリーンに対してスイッチDFを行う際、最大の問題はインサイドのミスマッチである。
そこで、ボールスクリーン・スイッチの後、もう片方のインサイドDF(ここでは4DF)がオフボールでスイッチを行うことで、インサイドのミスマッチを解消する。
(ガード間でも、体格差がある場合、より体格の大きいガードがスイッチに向かうことで、ギャップを少しでも小さくする、といったことが試みられる。
例えば、GSWの場合、カリーがインサイドOFにマークしてしまった状況で、同じGのクレイがスイッチに向かうという場面があった。クレイの方が相対的に体格に勝るからである)
そうすると、インサイドのギャップが埋まり、ボールスクリーン・スイッチによって生まれる隙を潰すことができる。これがTriple Switchのコンセプトである。
 
 
 
 
 
②Emergency Post Switch "Scram"

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ボールスクリーンやオフボールスクリーンに対するスイッチDF等によって、インサイドにミスマッチが生まれたとき、近くのインサイドDF(あるいは体格に優れるアウトサイドDF)がスイッチに向かうことによって、インサイドのギャップを埋めるコンセプトである。

お察しの通り、先述のTriple Switchは、このScramとボールスクリーン・スイッチを組み合わせた動きである。
スイッチDFを多用する際、このScramが十分に行えているかどうかでインサイドを守れるかどうかに大きく差が出てくることになる。
 
 
③ICE to Switch
 

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ICEというDFは、上図の通り

「ボールスクリーンに対し、ボールマンDF(1DF)がベースライン方向でディレクション
→「スクリナーDF(5DF)がリムを守り、ボールマンDFはシュートチェックの責を追う」
→(その後、それぞれのマークマンに戻る)
というDFシステムである。
 
 
この形は、スクリナーDFがスクリナーのロールにも対応できるため、ボールスクリーンからのイージーバスケットを防ぐにあたって非常に優れた形のDFである。
 
GSWは、このnormal ICEに加えて、ICE to SwitchというDFオプションを持っている。

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ICEからSwitchに移行することによって、先ほどのICEの利点を生かしつつも、ボールマン及びスクリナーのギャップをさらに小さくすることに成功している。

(アウトサイドDFは、スクリナーに簡単なパスが通らないようにケアしながらスイッチを行う)
もしこれによって生じたインサイドのミスマッチが攻められそうになったら、先ほど紹介したScramによってインサイドギャップを埋めるという合わせ技も存在する。
 
 
 
 
 
④Switch the Pindown Curl
 
 

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ダウンスクリーン・カールに対し、スイッチを行うことでギャップを最小化するDFオプションである。
この場合、スクリナー(主にインサイドOF、図では5OF)にイージーパスが通ることが一番危険なので、アウトサイドDF(2DF)はスクリナーへのパスをきっちりケアしながらスイッチを行うのがポイントである。
毎度のことながら、これによって生じたインサイドのミスマッチは、Scramによってカバーする。
 
 
 
 
 
 
⑤Late Clock Switch-Out
 

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ショットクロックぎりぎりいっぱいを使ったボールスクリーンプレーに対するスイッチDFオプション。

スクリナーDFに、元々のインサイド(5DF)ではなく近くのアウトサイド(2DF)が向かい、インサイドDFはその代わりにアウトサイドOF(2OF)をマークする。
この予めのオフボールスイッチによって、ボールスクリーン・スイッチに伴うアウトサイドのギャップを最小限にすることが目的である。
ショットクロックぎりぎり』というのがミソで、相手はこのスイッチの結果生まれるインサイドのミスマッチを使う十分な時間が無いことが多い。
 
実は弱点なのは、図の左コーナーである2OF…5DFのアウトサイド・ミスマッチで、対策としてはここにボールを入れてミスマッチを攻めるという方法がある。
 
 
 
 
 

GSWのSwith Defenceが洗練されすぎている件について

 
この動画で逐一紹介されているGSWのSwith Defenceが極めて洗練されており、かつ効果的であるため、紹介することにした。
 
(詳しい解説は、また改めて内容を纏めてから試みたいと思う)
 
GSWは、多くのスクリーンプレーに対してスイッチを多用している。インサイドとアウトサイドのDFが入れ替わることも極めて多い。(また、スイッチ多用が問題にならないスモール・ラインナップ(Death Squad)をよく活用している)
 
単純にスイッチングしているというだけでなく、色々な特徴がある。
 
スイッチする際は、ボールの位置を把握して、パスコースをケアしながらスイッチしていることが多い。
 
また、ICE to Swithのように、他のDF型と組み合わせて、より隙のないスイッチを行っている場合もある、(特にICE to Swithは、ICEでドライブ・インを諦めさせて、パスを誘ってのSwithであり、かなり高度なDFコーディネイト)
 
他にも、インサイドとアウトサイドのスイッチが起きた際、インサイドが中でのシールを試みようとしたら、他のインサイドDFがローテーションして来てそこで再スイッチ、という形も頻出である。
GSWはさらりとやっているが、未熟な場合、離された外側のOFが長くワイドオープンになってしまうわけで、かなりの戦術理解度を要求されるローテーションである。
 
 
この動画では紹介されていないが、2017FinalのGSW vs CLEでは、体格不足のカリーはスイッチせずにハードヘッジ&リターンを行い、残り4人でスイッチングするという形がたびたび見られた。(大きく手を広げながらヘッジして楽なパスを防ぎ、全速力で元のマークマンに戻るという、かなりハードなDFだったが、客観的に見てかなり効果的であったように思う)
 
既によく知られているところだが、GSWは得点の爆発力以上に、その組織的で強固なDFが強さの秘訣である。今後この部分をさらに研究していきたい。
 
 
この動画も、かなりわかりやすくGSWの(Switchingを含めた)DFシステムを解説しており、一見の価値がある。

現代バスケットボールの基本的な動き

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【追記:2018/12/18】

より基本的なカッティング(Vカット、フロントカット、フラッシュカット、シャロウカットなど)については、バスケットボールの基本のカット10種類 | ゴールドスタンダード・ラボというGSLの記事をお勧めしたい。  (出典元:10 Basketball Cuts Every Coach Must Know

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この記事では、現代バスケットボールの基本的な動きをまとめていく。
 
どのチームのFlow offenceないしSet offenceも、これらの基礎的なムーブメントを組み合わせて作られているものがほとんどだ。
 
今回主に参考にしたのは、Golden State WarriorsとLos Angels Clippersのvideo playbookである。
 
 
 
 
 
他のチームのプレイブックもYoutubeでは多くアップされており、そちらも参考にしているので、興味のある人はぜひ目を通すと良いと思う。
 
 
 
 
 
系統としては
①Two men play
②Three men play
③PNR
④Swing
⑤Set Example
におおまかに分類した。
 

 

 

  

①Two men play オフボールの二人、ないしボールマン+一人で行う動き

Pindown(Away Screen)
最もシンプルなスクリーンプレー。コーナーにいるプレーヤーへ一枚のダウンスクリーンをかけるプレー。
DFの対応に従って、Curl、Flare、Rejectの三種類の動きがある。
 
Away Slip
Away Screenをセットしたスクリナーが、スクリーンをキャンセルしてリムへカットインするプレー。
Slip自体は、スクリーンをキャンセルするプレー全般を指す言葉。

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Invert
Away Screenのユーザーが、スクリナーに再びAway Screenを掛けるプレー。最初のスクリナー(基本的にインサイド)のシュート力があると有効なムーブメント。
 

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(追記:2020/1/15)
Ripの形から、スクリナーとユーザーが入れ替わる形もある。(一般にScreen your ow manと組み合わされる)
 
 
Twist(Curl Pick)
Away Screenのうち、特にCurlRejectから発展し、スクリナーのギャップを利用するプレー。3Pライン上でオープンを作るのに極めて有効なムーブメント。
 
 
Post Split
ポストにボールがあるときに、アウトサイド同士で行うスクリーン&カッティングプレー。「シザース」という俗称もある。下図のパターン(スクリナーのBackdoor)以外にも、ユーザーのBackdoor & スクリナーのReplaceといったバリエーションがある。

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Thunder
ローポストのF or Cに対してGがダウンスクリーンをかけ、エルボーでボールを貰わせるプレー。

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Flare Screen
ボールから逆方向にスクリーンをかけ、ロブパスを行うプレー。

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Wiper
 
Flare Screenの後、再度スクリーンを利用してボール方向に動くプレー。
Flare Slip 
Flare Screenのスクリナーが、スクリーンをキャンセルしてカッティングするプレー。
相手がスイッチDFを多用する場合、特に効果的なムーブになる。

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Rip (Back Screen)
リム方向にカットさせるスクリーン全般を指す。

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Rub
カッティングするGが、カッティングをキャンセルしてF or Cにアップスクリーンを掛けるプレー。

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 参考→ Golden State Warriors Playbook: Elbow Series - YouTube "Elbow Rub" (1:26) 

 

Cross Screen (Flex)

ヘルプサイドのローポストに垂直なスクリーンをセットして、ボールサイドへカッティングさせるプレー。Down Screenと組み合わせたSTSアクション(後述)が伝統的。

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 関連記事→ スキルメモ――リロケート、クロススクリーン・カウンター

 

Hammer
Wingのプレーヤーにアップスクリーンをかけてコーナーに動かすプレー。

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Exit / Exit Screen

コーナーやウィングへのCut Outに対して、外側へのスクリーンを合わせるプレー。

Screen your own manで自分のマークマンを巻き込むことでスイッチを抑止したり、自分のマークマンがBlitzに向かった場合にスクリナーがSlip vs Blitzを仕掛けるなどのオプションがある。

参考 → Ram Exit
 
DHO
Dribble Hands-Offの略。
派生形として、Through、Reject、Angle ChangeからのPNR移行などがある。
 

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Flip 
パスを出した先に走り込みハンズオフを行うプレー。Flip Flare、Flip Thunderと言った連続のオフェンスに発展する。
 

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Stack Out
トップにボールがある状態で、ネイル周辺でビッグマンがスクリーンをセットし、オフボールマンがそのスクリーンを使ってサイドチェンジする動き。カッターにギャップが生まれればそこにパスを入れてアタックできるし、カッターにボールが入らなくても、ビッグマンが即座にボールスクリーンに移行できる(Stack Exit)。カッターにボールが入らないという事は、カッターへDFが張り付いているということなので、次善策のボールスクリーンに対するDFローテーションに遅れや乱れを強制することになる。
 
Clearout(Seal Screen) 
インサイドに居るプレーヤーが自分のマークマンにSealし、ハンドラーのドライブコースを創出して、イージーペネトレイトを作り出すプレー。DF側に優秀なリムプロテクターが居る時には極めて重宝するコンセプトである。(Transitionでも極めて有効な他、PNRを絡めた複雑なパターンも存在する)
 
Screen Your Own Man
ユーザーDFではなく、自分のマークマンであるスクリナーDFにスクリーンを掛けることで、スイッチによる対応を抑制するオプション。(それをスクリナーDFが無理に抜けようとしたら、Slip vs Blitzが決まりやすくなる)

https://assets.st-note.com/production/uploads/images/13578171/picture_pc_50735130ce39267362eaeb1ca300179c.png

画像18
 

②Three men play オフボールの3人ないし、ボールマン+二人で行う動き

 
Double Screen 
二人(主にインサイド)が"横"に並んでダウンスクリーンを掛けるプレー。スイングしてくるGに対してセットするのが一般的である。

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Elevator door 
シューターをカットアウトさせた後、そのランニング・コースにダブルスクリーンをセットするプレー。自動ドアが閉まる様に似ていることから、この名前がついている。

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Double Stagger
コーナーのGに対し、二人で"縦"に並んでダウンスクリーンをかけるプレー。下図で示すような多彩なパターンがあり、3Pライン上でオープンを作るのに長けるムーブメント。
 

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STSFlex and Rip)
他のオフボールスクリーンとダウンスクリーンを組み合わせ、スクリナーにダウンスクリーンをかける(Screen-The-Screener)ことでギャップを作るプレー
 

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追記:また、下記のように、Flex Screen(Cross Screen)ユーザーが、意表を突いてダウンスクリーンを利用するパターンもある。
UCLA Cut
トップのGがWingのG or Fにボールをパスし、トップのGに対してCがアップスクリーンを掛けるプレー。このプレーを起点とする多彩なオフェンスパターンが存在する、極めて有名なムーブメント。

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最近では、トップにビッグマンを置き、ガードにUCLAスクリーンをセットさせるパターンも普通になりつつある。

 

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その理由は、①ペイントへダイブするのはビッグマンである方が合理的。 ②もしスイッチが発生する場合、インサイドでサイズミスマッチ、アウトサイドでスピードミスマッチが出来るので合理的。もしトップがガード、スクリナーがビッグマンのUCLAの場合、インサイドでスピードミスマッチ、アウトサイドでサイズミスマッチが出来ることになり、非合理的となる。

 

Pistol Action (21 series)
1→2のDHOから、ボールスクリーンに移行する形を基本とするプレー。DHOと見せかけて2が(1へ)ボールスクリーンを行うパターンや、2へパスして1がDHOを貰いに行くパターンなど、様々な形がある。
 

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Wedge Roll
GがF or Cにスクリーンを掛け、ユーザーのF or Cがボールスクリーンを行うプレー。F or Cのマークマンにギャップを作り、ボールスクリーンへのヘッジを難しくすることが出来る。
 
 
【2024/4/12 追記】
Wedge Screenには元々、Top of the KeyのBigにたいしてGuardがBack ScreenをセットしてLow Post Upを狙わせるアクションのことを指す(参照:“Wedge Screen” and “Wedge Roll”. Term: Wedge Screen | by The Basketball Action Dictionary | The Basketball Action Dictionary | Medium)。その形からPNRに移行する当該プレーを、Wedge RollないしWedge PNRと呼ぶこととなったという経緯である。
 
【2019/2/24 追記】
ボールスクリナーにあらかじめオフボールスクリーンを掛けるプレーには、(Wedge Rollの他に)Ramという呼称もある。(参照:Terminology - Action: Ram - FastModel Sports
 
Zipper Cut
ボールハンドラーのWingへのドリブルダウンに合わせて、元々Wingに居たGがインサイドのダウンスクリーンを受けつつトップに移動するプレー。これ自体はオフェンシブな動きではないが、サイドチェンジや他のプレーへの移行に際してよく多用されるムーブメント。後述するFloopyというプレーに移行するパターンは特に”Loop”と呼ばれる。

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AI (Iverson Cut)
フリースローライン上にフラット・ダブルスクリーンをセットし、ウィングのプレーヤーがそれを使ってオーバースイングするプレー。ウィングのプレーヤーのギャップを大きくする。あるいは、ウィングのプレーヤーのギャップを最小化しようとすると、それ以外のカバーがおろそかになり、ハンドラー(1)のPNRが守り辛くなったりする。
(※二枚目のスクリーンはビッグマン (5)が望ましい。二枚目でのスイッチがされ辛くなる(あるいは、スイッチされても好都合)ためである。)
 
 
 
 

③PNR ボールスクリーンを起点とした動き全般

 
Roll&Replace (Shake) 
PNRで最も基本的なオプション。スクリナーがロールインし、ユーザーとスクリナーが空けたスペースを他のプレーヤーが埋めるムーブメント。リプレーサーにDFが釣られた場合は、スクリナーのロールにパスが入りやすいという構造もある。
 
 
Single-Side Bump Action (Single Tag Action)
Roll & Replaceに類する基本パターンで、ボールサイド・コーナーに一人だけ置いてPNRを行い、ロールするスクリナーとコーナーによる2on1を仕掛ける頻出アクション。

コーナーのプレーヤーがReplaceすることもあるし、コーナーステイを選択する場合もある。

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参考→ Film Room with Coach Spins Episode 8: The Single Side Bump - YouTube
 
'short' PNR
ボールスクリナーがロールする際、もう一人のシューターでないビッグマンが、ボールサイドのショートコーナーへ移動して、スクリナーがロールするためのスペースを確保する動き。オフボールにノンシューターのビッグマンがいる場合は、Roll & Replaceよりもこちらのオプションの方が優位になりやすい。(ノンシューターDFがスクリナーのロールに気を取られている場合は、下段のように、ノンシューターに直接パスを出すというオプションもある)

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参考→  PNR関連Togetter紹介……『'short' PNR』、『Houston Rocketsから学ぶボールスクリーンの掛け方』
 
Short Roll
ボールスクリナーが深い位置までダイブせず、浅い位置(ネイルよりも外、場合によっては3Pライン上ないし3Pライン外)にロールしてパスを受け、そこからのアタックやパスを狙うプレー。ハンドラーにプレッシャーをかけてくるDFに対して有効なオプションで、ローラー(スクリナー)のアタック↔️パスの判断が優れている場合は特に厄介なムーブメントとなる。

 

 

Tag Dive (Vacuum Cut)

Tag Diveは、スクリナーに対するコーナーDFのケア(”tag”)を利用し、コーナーからのダイブで得点を狙うアクションである。コーナーDFがボール&スクリナーウォッチャーになっているときに用いる。f:id:ocum2013-041:20200321170930p:plain 参考→ "Tag Dive" ("Vacuum Cut" Concept)参考②→  Tag Dive (= Vacuum Cut) コンセプトとその類型  

Pop&Dive (Cut the Pop)
PNRの第二オプション。スクリナーはポップアウトし、もう一人のインサイドがゴール下への合わせを狙う。スクリナーにシュート力があるときに有効なプレー。
スクリナーがインサイドプレーを得意とする場合はRoll&Replaceを行い、アウトサイドシュートを得意とする場合はPop&Diveを多用するといった形が好ましい。
また、Popに合わせてone-pass-awayのプレーヤーがダイブするパターンもある。そうすることで、Popしたシュータービッグに対するローテーションを妨げる。この動きは特にCut the Popとも呼ばれる。
 
 

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Angle Change (Re-pick, Re-screen, flip)
PNRでスクリナーが角度を変えて再度ボールスクリーンを行うプレー。一度のボールスクリーンでギャップが生まれなかったときに極めて有効なオプション。ハンドラーDFのスタンス変更に合わせて即座に三枚目のようにAngle Changeを行うパターンも多い。三枚目のタイプのAngle Changeだと、スクリナーDFのカバーも遅れがちになり効果的となりやすい。

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Step-up (Weakside Step-up)、およびBoomerang Step-up 
サイドチェンジパスに合わせて、ウィークサイド(ヘルプサイド)でスクリナーが文字通りStep-upしてボールスクリーンをセットするムーブ。ボールが最初は逆サイドにあるので、ボールスクリーンが視野に入っておらず、スクリーンへの対処が遅れやすい構造となっている。

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また、パス交換を挟んでStep-upを行うコンセプトとして、Boomerang Step-upというコンセプトを独自(勝手)に提唱している。

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参考→ "Boomerang" Step-up
 
 
 
PNR Slip 
PNRスクリナーがスクリーンをキャンセルし、カッティングを行うムーブ。ペイントエリアにスペースがある場合はスリップイン、アウトサイドにスペースがある場合はスリップアウトを行うのが好ましい。

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Slip & Lift
PNRスクリナーがSlip inする際に、もう一人のインサイドが同時にLiftを行うことで、Slipをオープンにするムーブメントのことである。

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参考→ Slip & Liftに関するツイート
 
Chase
オフボールスクリーンのあと、オフボールスクリナーがPNRに向かうムーブ。(オフボールスクリーン・ユーザーを”追い掛ける”ことからChaseという名がついた)
AwayからトップへのChaseへの移行ムーブは、特に"Bullet"と呼ばれることがある。
なお、オフボールスクリーン・ユーザーがボールを貰わなかった場合(ボールハンドラーが変わらなかった場合)も、オフボールスクリナーがPNRに向かえば広い意味でChaseと呼称することもある。
 
 
Veer
ボールスクリナーがそのままAwayに向かうプレー。後のAwayのケアを難しくする効果がある。
Throwback
パス展開にボールスクリーンを仕掛けた後、PNRスクリナーが最初のパサーにスクリーンを掛けに行くムーブ。(最初のパサーでないプレーヤーにスクリーンを掛けたり、サイドピックをキャンセルしてスクリーンを掛けに行ったりなどのバリエーションもある)
PNRに対するDF収縮を逆手に取り、容易な3Pを生むことが出来る。

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Spain Pick&Roll
PNRスクリナーにGがスクリーンを掛けるムーブ。スクリーンをかけたGがアウトサイドでワイドオープンになりやすい。
 
 
Drag, Double Drag
エントリーで後ろから走りこんだインサイドがWingのG or Fにボールスクリーンを掛けるプレー。インサイド二人でダブル・ボールスクリーンに向かうDouble Dragというプレーもある。

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Chicago play
Away CurlとDHOを組み合わせたムーブ。
ボールマンにあらかじめギャップを作っておくことで、DHOをスムーズに行えるよう工夫されている。

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DHO+PNR 
DHOに対してさらにボールスクリーンをセットするプレー。
ギャップが出来やすくなることはもちろんのこと、ボールスクリナーを二人設置することになるので、スイッチは混乱するし、DFも外へ引き出されることになる。
 

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Zoom
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Chicago や DHO+PNR (Pistol) など、3人以上が絡むDHOアクションのことを、概念的に広く包含してZoomを呼称する場合がある。
 
 
Stampede
ボールスクリーンをDecoyにして、ワンパスからのペネトレイトを狙うプレー。ワンパスの位置にいるプレーヤーのマークDFが、スクリナーのロールに対してBumpを準備しているというのが前提である。Bumpに対して準備している分、パスに対するクローズアウトが遅れるという構造。
 

④Swing Gの横断的な動きを主軸にしたプレー

 
Over Under
両Wingのガードが、一方はボールサイドカット、一方はベースラインスイングを行うプレー。ベースラインスイングに対してはダウンスクリーンをセットする。
 

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Floppy
両Wingのガードのうち、片方がスクリーンをかけ、スクリナー・ユーザーの双方が、インサイドのダウンスクリーンを貰いつつWingへとリプレースするムーブメント。
ユーザーやスクリナーが左右どちらのWingに移動するかが自由なので、そこに駆け引きが発生し、アウトサイドでのオープンが生まれやすい。
また、両Wingがディナイされる場合はBackdoorへの移行が有効で、ポストマン(4or5)がハイポストにFlashし、2or3のバックドアを狙うプレーで容易に得点することが出来る。
他にも、カットアウトするガードに対してスクリナーDF(4or5のDF)がディナイを試みる場合は、スクリナー(4or5)がオープンになり、リム周りでのイージーショットが生まれることになる。
3枚目と4枚目のパターンは、片方がカールから入るFloppyである。この形のFloppyの利点は①2のカールを本能的にケアしてしまい、3のカットアウトに対応が遅れる。 ②2がカールすることによって、x3が3のカットアウトに対して簡単にオーバーするのが物理的に難しくなっている、といったことが挙げられる。
 
 

⑤Set Example 上記のプレーを組み合わせたセットの数々

 
 
Loop Hammer
Zipper Cut → Floopy → Hammerで構成される有名なセットオフェンス。多くのチームがこぞって愛用している。
 
 

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Hawk Action
UCLA Cut → PNR → Double Screenで構成される有名なセットオフェンス。このセットも普及度が極めて高い。
 
参考動画:Spurs Hawk Action
 

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Fist Miami (Heat High Pick&Roll Chest Clear)
HornsからのWedge Roll → PNR Slip & Flare Screenで構成されるセットオフェンス。レイ・アレンが好んだ往年の名セット。
起点は厳密にはWedge Rollとは少し違うが、ボールスクリナーにあらかじめスクリーンを掛けるというアイデアは共通する。
PNR SlipにFlare Screenを組み合わせることで、ボールスクリナー(レイ・アレンがこのポジションを務めた)がワイドオープンになる。
 

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これら以外の多くのセットも、基本的には上記のムーブメントの組み合わせによってほぼ成り立っているので、これらのムーブメントへの理解が深まれば、既存セットの構造を理解しやすくなるはずである。
 
 
 
 

トライアングル・オフェンスの陥穽

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なぜトライアングルオフェンスは廃れたのだろうか?
 
今や現代バスケ(特にNBA)においてはトライアングルに「時代遅れ」の汚名がついてまわり、スパーズモーション、P&R、Horns等が戦術の主流となって久しい。(追記:2018/10/29 DelayやSnapといったパターンも定着してきている。)
 
トライアングルは、これらの主流オフェンスに比してどの点で劣っているのだろうか?
 
この点に関しては(私の情報収集力不足かも知れないが)あまり整理して論じられていないように思う。(せいぜい「ニックスのトライアングルがひどい」程度のもの)
 
そこで明確に主流オフェンス(モーション、PNR、Hornsなど)と対比する形で、トライアングルの『やりにくさ』を論じていきたいと思う。
 
 
①オフェンスのセットアップが遅い(モーションやPNRと比較して)
 
トライアングル・オフェンスでは、ペイントエリアに二人のプレーヤーをあらかじめ配置する必要がある。そのプレーヤーは基本的に4番(PF)、5番(C)が想定される。
しかし、現実問題として、トランジション時のリスタートに際しては、これらの所謂インサイドがリバウンダーとなることが多い。この際、物理的必然として、リバウンダーとなったインサイドは最後尾からリスタートする。
それに対しトライアングルは、ペイントエリアを二人が埋めていることを要求するため、最後尾のインサイドのペイントエリア到達を待たなければならず、どうしてもオフェンスのセットアップが遅くなる。
 
参考画像:トライアングルのセットアップ
 

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※緑はパス、赤はドリブル
 
24秒ルールの縛りがあることから、セットアップの遅れはオフェンスの不利に働くし、トランジションにおけるDFポジショニングの乱れを衝くチャンスを喪失しがちなのはいただけない。
これに対しスパーズモーションは、リバウンダーが最後尾を走ることを前提とし、リバウンドを取ったインサイドをトップに置くことで、素早く5人のオフェンスをスタート出来る仕組みを作っている。
 
参考画像:Motion Weak (引用元はこちら

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また、インサイドがペリメーターエリアからオフェンスに参加できる戦術として、最も典型的なのはPNRだ。最後尾から走ってきたインサイドが、ウィングやトップのガードにボールスクリーンを掛ける形でオフェンスがスタートするのはスタートの早さの面で極めて理に適っている。(このプレーは特にDragと呼ばれる)
 
参考画像:Drag
 

 

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オフェンスの展開が高速化していけばしていくほど、モーションやPNRメインのオフェンスは有利になり、トライアングルオフェンスは不利になる。
 
 
②実はポストを有効活用しづらい
 
 
トライアングルのファーストオプションは、ローポストにポストアップしたインサイドにボールを入れ、ガードのカッティングプレーかその後のインサイドの1on1で得点を狙うものである。(セカンドオプションはヘルプサイドに展開してからのツーメンオフェンス)
 
しかし、ウィング、コーナーに人を置いてからローポストにポストアップする形は、ポストを利用するには実は不向きな形だ。
 
実はコーナーに人が居る分だけ、ポストマンが使えるエリアが狭くなっている。同時に、パスを通せるレンジも狭くなっているのだ。
コーナーにポジショニングするガードがキャッチ&3Pに優れている場合はある程度ポストパスも通りやすい(それでも範囲が狭くなることは変わりない)かもしれないが、3Pの確率が低かったり、クイックリリースが苦手であったりすると、コーナーDFがポストパスをケアするのが容易になってしまい、却ってポストパスを邪魔する。
 
 

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2001レイカーズも、シャックにポストで攻めさせる場合は、コーナーに人を置かない形を作ることが少なくなかった。その方が、ポストにパスを入れやすく、ポストマンも最初から広いエリアを使えるので攻めやすいのである。
 

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例えば、GSWのポストプレーやPost Decoy(ポストにボールを置いて、残り4人の動きでギャップを作るプレー)も、ウィング-ポスト一人ずつ(計2人)の位置関係を作り、ポストマンはポスト付近の広いエリアを使ってパスを受け、ポストプレーを行うのが基本型である。(特に、ゴール下のスペースを確保するためにポストやや外側へのポストアップを多用し、オフボールのカットインを活かす形を作ることが多い)
(参考:Post Decoy
 
Post Decoyの例
 

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トライアングルのようにコーナーに人を置くのは、ウィング~コーナーでボールを動かすことで角度を変え、ポストに入れやすくするという狙いもあるのかもしれないが、それよりもポストマンに広いプレイエリアを与える方が費用対効果に優れている。その必然的帰結として、ポストアップを利用する際は同コーナーに人を置かない形(トライアングルとはまさに真逆の方針)が主流になったのだと考えられる。
 
 
③ボールムーブメントに難がある(Strtech 4やHornsと比較して)
 
現代バスケ(特にNBA)では、所謂4番(時には5番)にペリメーターより外の領域にスペーシングさせることが珍しくない。また、スモールボールラインナップといって、サイズが小さめだがペリメーターでプレイできる機動力に長けた5人でプレーするオプションも珍しいものではなくなった。
 
Stretch 4の例

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Stretch 4からPNRへの移行 5人全員が3Pライン外へ

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こうして、3Pラインに4人以上が並ぶようなフォーメーションが頻出するようになった。このようなフォーメーションの主な利点は2つあって、一つはペイントエリアのスペースが広がること、もう一つは、ボールムーブメントが良くなることである。
 
3Pラインに4人以上を並べると、3Pライン上がワンパスの距離で繋がり、スムーズなボールムーブメントが可能になる。
 
 

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一方、3Pラインが3人以下であると、途端にボールムーブが難しくなる。
トライアングルオフェンスは、基本のポジショニングが3out2inであり、ボールムーブの面でStrech 4などに劣ることになる。
 
 

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またHornsも、エルボーやや外に位置取る場合はかなり4out1inや5out0in寄りになる分、ボールムーブに優れており、この点でトライアングルより勝っている。
 
例:広めのHorns

 

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【トライアングルの使い方】
 
では、トライアングルはもう使えない、ないし使いにくいオフェンスなのだろうか?
 
一つ使い方としてありえるのは、オフボールのスペーシングとしてのトライアングルだ。これはかなりのチームで頻用されている。
 
ボールサイドのツーメンプレー(基本はPNR)に対し、ヘルプサイドのコーナー、ウィング、ペイントエリアにそれぞれスペーシングする、「ヘルプサイドのトライアングル」という形は、所謂「合わせ」のスペーシングとしてとても理にかなっている。
 
ヘルプサイドのトライアングル
 

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ヘルプサイドのトライアングルの実例

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一旦トライアングルを形成してからサイドチェンジし、展開先でボールスクリーンプレーを行い、「ヘルプサイドのトライアングル」へアシストパスを出す、というようなオフェンスの形は、実際有用であるようだ。
 
 
参考リンク:
トライアングルについて 
 
スパーズ・モーションについて
 
Hornsについて
 
Delay、Snapについて